研究課題/領域番号 |
21H02950
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
国崎 祐哉 九州大学, 大学病院, 准教授 (80737099)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 造血微小環境 |
研究実績の概要 |
造血幹細胞は生涯にわたって、血液細胞の供給、幹細胞自身の維持を行っている。造血幹細胞の機能は、骨髄内の特殊な環境(造血幹細胞ニッチ)により制御を受けている。造血幹細胞ニッチの構成細胞の1つである間葉系幹細胞は血管を包囲する形で「pericyte」として存在し、多分化能、組織再生能を持つことに加えて、造血幹細胞の維持に必須の因子を多く産生し、造血幹細胞と間葉系幹細胞の相互作用が骨髄造血を維持するために非常に重要であることが明らかとなっている。骨髄において血管を裏打ちする形で存在する「pericyte」は、間葉系幹細胞としての多分化能、組織再生能を持つことに加えて、造血幹細胞の維持に必須の因子を多く産生し、造血を維持するために非常に重要であることが明らかとなっている。更に、「pericyte」は、tip cellとして血管新生を先導するなど血管内皮細胞との相互作用もその機能に極めて重要である。近年、加齢に伴う骨髄微小環境の機能的変化が、造血幹前駆細胞の悪性形質転換やクローン選択を促進する「変異原性微小環境」となる可能性や腫瘍細胞が微小環境を質的に変化させることで、腫瘍細胞の増殖に有利な骨髄微小環境を形成することが示され、造血器腫瘍における微小環境の理解は重要である。本研究課題では、3次元イメージングとシングルセルシーケンスという2つの新しい技術を組み合わせて、骨髄微小環境を構成する細胞群、特に間葉系細胞や血管内皮細胞の不均一性を詳細に分析し細分化することを第一の目的とする。更に細分化されたそれぞれの分画やその相互作用が発生、加齢によってどう変化し、悪性クローンの発生や動態にどのように寄与するかの解明を目指す。また、骨髄微小環境が造血腫瘍細胞の動態をどのように修飾しているかを明らかにし、微小環境-腫瘍相互作用を標的とした新しい造血器腫瘍制御法の開発を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
加齢に伴い骨髄間葉系幹細胞においてテロメア保護分子POT1aの発現の著明な低下が認められた。POT1aは、シェルタリン複合体の構成分子として、テロメアにおけるDNA損傷反応を防止する一本鎖DNA結合タンパク質である。POT1aは、造血幹細胞の自己複製能および分化能力を維持するために必須であることが報告されており、テロメアの保護は「幹細胞プログラム」を維持するために重要であると考えられたため、このPOT1aを間葉系幹細胞から欠損させる実験系をin vitroおよびin vivoで確立した。マウス骨髄より採取した間葉系幹細胞からin vitroでPot1aを欠損し、培養する実験系を用いて、Pot1aが間葉系幹前駆細胞においてどのような機能に関わっているかを評価した。機能変化を網羅的に解析するために、RNAシーケンスによる遺伝子発現解析を行ったところ、GO解析により、脂肪酸代謝経路の亢進、骨や骨格形成に関わる遺伝子群の発現低下が認められた。これらの遺伝子発現変化で示唆された機能の変化を裏付けるために、分離した間葉系幹前駆細胞を用いて、脂肪酸の取り込み実験やin vitroでの骨分化実験を行い、双方の機能が実際に影響を受けていることを実証することが出来た。これらのin vitroの実験で得られた結果を、個体レベルで実証するために、間葉系幹前駆細胞特異的にPot1aを欠損させるマウス(NG2-cre/POT1aflox/flox)を作製したところ、骨格系の発育障害を認めた。更に、NG2-cre/POT1aflox/floxマウスでは、末梢血においてB細胞が著明に減少し、骨髄全細胞のDrop-seqを用いたシングルセルシーケンス解析により、B細胞前駆細胞の減少も認め、間葉系幹前駆細胞の機能と正常血球分化との関連が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
予備実験として、7週齢と120週齢の高齢マウス骨髄や骨髄増殖性疾患類似病態を示す血球特異的Ragnase-1欠損マウスから既知のマーカーでソートした間葉系幹前駆細胞や血管内皮細胞集団のRNAシーケンスを行い双方で有意に上昇を認めた因子Xをすでに特定している。この因子Xについて、大阪大学微生物研究所にて細胞特異的に欠損や過剰発現が可能となるfloxマウスが完成しており、今後これらのマウスと血管内皮特異的Cre(Cdh5-creERT2)マウスや骨髄間葉系幹細胞で発現する(NG2-cre)マウスを交配することにより、この因子Xの生体内での役割を検証する。更に、MLL-AF9遺伝子導入による白血病モデルマウスの骨髄血管構造を観察したところ、対照マウス骨髄と比較してより密な骨髄洞構造が見られた。更に、間葉系幹前駆細胞もしくは骨芽細胞を蛍光標識するマウスに、AMLを発症させることにより、AML骨髄ではNG2-creかつCollagen1.1-creで標識される間葉系細胞分画が増加することを見出している。AMLマウスより間葉系幹前駆細胞を分離し、qPCR解析を行ったところ、Angpt1、Angpt2といった血管修飾に関わる因子の発現に有意な変化が認められ、AMLを支持する骨髄微小環境における間葉系幹前駆細胞「pericyte」と血管内皮細胞との相互作用の存在が示唆された。正常骨髄微小環境プロファイルと比較することにより、AMLを支持する因子(構造)を特定する。 並行して、小分子化合物ライブラリーの概日リズム阻害スクリーニングにより微小環境-腫瘍細胞相互作用を標的とした抗腫瘍薬となる可能性のある分子の同定を試みる。
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