微小環境の変化が造血器腫瘍動態に与える影響の解析と腫瘍-微小環境相互作用を標的とした新たな抗腫瘍薬を開発を目的に、以下示す2つを目的として研究を行った。 (1)加齢と造血器腫瘍骨髄における微小環境変化の比較より共通因子を同定し、遺伝子改変マウスモデルを用いた検証を行った。間葉系幹前駆細胞や血管内皮細胞集団のRNAシーケンスを行い双方で有意に上昇を認めた因子Xを特定し、この因子Xについて、「pericyte」特異的に欠損させたマウスを作製し、白血病を含めた骨髄増殖性腫瘍や骨髄異形成症候群などの類縁疾患モデルを用いることで、造血器腫瘍の発症、進展に関わる因子の一つであることを実証することができた。 (2)微小環境-腫瘍細胞相互作用を標的とした抗腫瘍薬スクリーニングにおいて、各臓器(細胞微小環境)は、アドレナリン作動神経を介して日内変動を示しており、造血幹細胞を含む血液細胞(免疫担当細胞)の体内動態や分布も微小環境の持つ概日リズムの影響を強く受けていることが示されている。腫瘍細胞の持つ概日リズムを修飾する化合物のスクリーニングを行うことで、微小環境-腫瘍細胞相互作用を標的とした抗腫瘍薬の探索を行い、数種類の化合物を候補として同定している。その中より、培養ヒト白血病細胞株の増殖抑制効果を示した物質に対して、その実用化へ向けた研究を行った。白血病モデルマウスにおいて生存延長効果を示すことが確認された。更に、質量分析装置を用いて、培養白血病細胞株において概日リズム阻害薬投与後に、その量に変化を来すタンパク質を網羅的に解析し、160種類の増加するタンパク質を同定した。更に、有意に増加したタンパク質のクラスター解析などから、概日リズム阻害薬と相乗効果を示す可能性のあるシグナル伝達経路を見出し、その阻害薬の組みせにより、より正常細胞に毒性の少ない治療法の開発につながる結果が得られた。
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