研究課題
従来の白血病幹細胞研究は、白血病幹細胞の有する造腫瘍能、自己複製能を中心に研究が展開されてきた。白血病幹細胞は、治療抵抗性および再発において中心的な役割を担うと考えられているが、実際に治療後に残存するヒト白血病幹細胞を直接的に対象とする研究は非常に困難であった。これは正常造血幹細胞と白血病幹細胞を識別する有効な表面マーカーが欠如していること、および細胞数が非常に少数であることに起因する。申請者らが世界に先駆けて同定したヒト白血病幹細胞特異的表面分子TIM-3は、ヒト正常造血幹細胞と白血病幹細胞を識別するのに非常に有効な分子であり、TIM-3陽性分画に白血病幹細胞活性を有する機能的分子であることを見出している。また、TIM-3発現により臨床的に治療抵抗性残存白血病幹細胞をモニターすることが可能であることを見出している。すなわちTIM-3による識別にて、より白血病幹細胞を正確に捕捉し、かつ高感度に白血病幹細胞を分離することが可能となった。そこで、臨床情報と関連づいた真の治療抵抗性TIM-3陽性白血病幹細胞を純化し、シングルセルあるいは100-1000の少数細胞数レベルでマルチオミックス解析、すなわちgenomics/transcriptomics/proteomicsを同一細胞で解析を行い、より詳細に治療抵抗残存白血病幹細胞の生物学的特性を検討する。これにより、治療抵抗性白血病幹細胞が依存する生存メカニズムを解明し、新たな治療開発の戦略を構築するプラットフォームを構築するため、本研究を計画した。
2: おおむね順調に進展している
2021年度から開始した本研究はコロナ禍に直面し、急性白血病の化学療法・同種造血幹細胞移植の実施例が減少し、それと呼応して臨床検体数および臨床情報の収集も予定と比較して停滞した。そのために一部の研究計画が予定よりも遅延して、2022年度に予算執行の繰越を余儀なくされた。そのような状況下において、本研究は以下の3つの項目を中心に研究を行っている。1. TIM-3による残存白血病幹細胞推移解析とモニタリングシステムの構築。 2. Single cell transcriptomics解析による治療抵抗性TIM-3+白血病幹細胞の潜伏メカニズム解明。3. Genomics解析による治療抵抗性TIM-3+白血病幹細胞のクローン進化の解明。1に関してはマルチカラーFCMによるモニタリングシステムを構築完了しており、症例の集積を前向きに行い、臨床情報に紐付いたデータを集積中である。2に関してはsingle cell RNA-seq解析系の樹立を完了しており、新規Tapestri platformを利用した遺伝子変異解析と遺伝子発現解析を同時に行うユニークな解析系を立ち上げ中である。3に関しても2と同様にTapestri platformを利用したsingle cellレベルでの同一症例におけるクローン追跡技術の構築に取り組んできた。2021年度は臨床検体を用いた解析は遅延したが、その代わりに基礎的な研究に関するアッセイの条件設定がほぼ完了し、効率的な解析が可能になった。以上のことから、結果的には研究全体においては概ね順調に進捗できていると考える。
本研究は上述した通りに、2022年度以降も研究計画書に記載した3項目を中心に研究を行う。1. TIM-3による残存白血病幹細胞推移解析とモニタリングシステムの構築:症例集積の継続をしながら、同時に予後の層別化をより効率的に分類可能となるようなパラメーターの探索を行う。現時点ではROCカーブ解析により適切な閾値を決定しているが、症例数を増加した状況で再度パラメーターの設定に取り組む。2. Single cell transcriptomics解析による治療抵抗性TIM-3+白血病幹細胞の潜伏メカニズム解明:2021年度中に確立した解析システムを用いて症例数を増加させ解析に取り組む。現時点においては、免疫逃避関連分子およびシグナル増殖関連分子が微小残存白血病幹細胞分画に高発現していることを見出している。さらに多くの臨床検体を用いて検証する。3. Genomics解析による治療抵抗性TIM-3+白血病幹細胞のクローン進化の解明:2022年度はCyTOFによる細胞内シグナル評価系の立ち上げを行う。予備検討および2の実験遂行状況から潜伏期白血病幹細胞に特徴的な細胞内シグナル特性について予備データを得ており、2022年度は、この残存白血病幹細胞に特徴的な細胞内シグナルに関してCyTOFを用いて定量を行う。これらの研究の遂行により治療抵抗性TIM-3陽性白血病幹細胞が依存するシグナル経路の解明に取り組む。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件)
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