研究課題
これまでに我々は、クリプトコックス抗原特異的T細胞受容体を発現するトランスジェニックマウス(CnT-II)を用いて作製した潜在性感染(LCNI: latent C. neoformans infection)モデルに免疫抑制剤を投与することでクリプトコックス症の内因性再燃発症を再現することを試みてきた。近年、多発性硬化症の再発予防薬として導入されたFingolimodo(FTY720)の投与に伴って発症した播種性クリプトコックス症の報告が散見されている。本研究では、我々のLCNIモデルにFTY720を投与することで肺内のTh1免疫応答が抑制されるとともに、潜伏感染真菌が再活性化し肺内生菌数が増加することを見出した。FTY720は投与後に生体内でリン酸化を受け、スフィンゴシン1リン酸(S1P)と類似した構造を取ることでS1P受容体(S1PR)に作用し免疫抑制用を示すことが知られている。このLCNIモデルでは肺内に多核巨細胞を伴う肉芽腫が形成され、マクロファージや多核巨細胞内に潜伏感染するクリプトコックスが観察され、免疫組織化学染色では肺内のマクロファージやリンパ球にS1PR1、マクロファージ、多核巨細胞、気管支上皮細胞にS1PR3が発現していた。CnT-IIマウスの脾細胞からナイーブCD4+T細胞及び樹状細胞を採取し、クリプトコックス抗原Cda2で刺激する際にリン酸化FTY720を添加するとIFN-γ産生の有意な抑制が認められた。これらの結果から、FTY720投与により免疫細胞上のS1PRを介したT細胞の活性化抑制が起こり肉芽腫構造の破綻を起こすことで内因性再燃を来す可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
クリプトコックス抗原特異的T細胞受容体を発現するトランスジェニックマウスを用いることで潜在性感染から内因性再燃に至る動物モデルの作製に成功した。特に、臨床でも問題となっている新規免疫抑制剤を用いたモデルを用いた内因性再燃の免疫機序の解析において興味深い結果が得られつつある。
令和3年度に得られた知見をもとに、クリプトコックス潜在性感染から内因性再燃に至る過程における肉芽腫の維持・崩壊と、メモリーT細胞の機能的動態及びその制御機構の破綻、その他の免疫細胞との関連性についてさらに詳細な解析を実施することで、本感染症の内因性再燃発症の免疫病態の解明へつなげる。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件)
Scientific Reports
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