研究課題
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する有効なワクチン開発は世界的課題である。原因ウイルスであるSARS-CoV-2に対する中和抗体は、ウイルスの感染阻止に中心的役割を果たす。我々は、令和2年度までに、COVID-19の回復期症例から、SARS-CoV-2を低濃度で強力に中和する単クローン抗体(9-105、10-121)を樹立した(特願2020-143055)。本研究の目的は、SARS-CoV-2中和抗体に対する抗イディオタイプ抗体を作成し、その免疫による中和抗体誘導の可能性を調べるところにある。令和4年度は、昨年度に引き続き、従来株を強力に中和する2種類の中和モノクローナル抗体を標的とした抗イディオタイプ抗体の作成をマウスの系で行い、抗イディオタイプ抗体候補が2クローン樹立された。一方、令和4年度においてSARS-CoV-2パンデミックは、オミクロン株の流行という新しい局面を迎えた。我が国でも、令和4年春のBA.1(第6波)に続き、BA.2、BA.5の流行が起こった(第7波、第8波)。さらに、最近、その亜系統株(BQ.1.1やXBB.1.5)の流行が米国で報告された。我々が用いてきた抗体は、従来株に比べオミクロン株に対する中和能が著しく低下することが判明したため、ワクチン2回接種後にデルタ株に感染した症例から、新たにオミクロン株を広範に中和する4種類の中和モノクローナル抗体を分離した(出願番号:特願2022-142801)。これによって、オミクロン株を含むすべての変異株が低濃度で中和されるパネルが準備できた。本研究では、これらの新規中和抗体に対する抗イディオタイプ抗体の作成を開始した。中でも、早期に分離できた1-58抗体もしくは3-1抗体に関しては、抗SARS-CoV-2活性を低下させる抗イディオタイプ抗体候補として10クローンが分離できている。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、SARS-CoV-2に対する強力な中和抗体に対する抗イディオタイプ抗体パネルを作成し、中和抗体誘導の可能性を調べるところにある。現在スパイク蛋白全長を発現するmRNAワクチンの接種が行われているが、誘導できる抗体の大部分は非中和抗体である。一方、抗イディオタイプ抗体を用いる戦略は、強力な中和抗体のみを特異的に誘導する。特に、オミクロン株の抗原ドリフトに対応する中和抗体反応の誘導には、対応するB細胞の同定が必須であり、抗イディオタイプ抗体パネルを用いた交差中和抗体を持つ症例の解析データが必要である。令和3~4年度は、デルタ株を含む従来株に対して最も強力なSARS-CoV-2中和抗体(9-105)をマウスに免疫し、脾臓細胞から抗イディオタイプ抗体産生B細胞を分離し、RT-PCR後にVHとVLをそれぞれクローニングして抗体蛋白を得る方法を確立した。中和抗体に対する結合抑制活性、中和活性の抑制試験などにより、2種類の抗イディオタイプ抗体が得られた。令和4年度には、オミクロン株の流行という新しい局面を迎えた。我々が用いてきた抗体は、従来株に比べオミクロン株に対する中和能が低下することが判明したため、新たにオミクロン株を中和する4種類の中和モノクローナル抗体を分離した(出願番号:特願2022-142801)。令和4年度には、これらの新規中和抗体に対する抗イディオタイプ抗体のパネルの作成を開始した。中でも、早期に分離できた1-58抗体及び3-1抗体に関しては、抗イディオタイプ抗体候補として10クローンが分離できた。さらに、アルパカに免疫して、single chain抗体として、ファージ・ディスプレイライブラリーを作製し、複数の特異性を持った抗イディオタイプ抗体パネルを分離する計画を開始した。
本研究課題には、以下の4つのレベルがある。1.SARS-CoV-2中和抗体に対する抗イディオタイプ抗体パネルの作成2.抗イディオタイプ抗体パネルを用いた人およびモデル動物のB細胞の解析3.SARS-CoV-2感染実験可能な動物モデルでの中和抗体誘導研究4.治療ワクチン及び予防ワクチンとしての応用のためのPOC試験令和4年度は、最も強力な中和抗体(9-105)をマウスに免疫し、脾臓中のB細胞をビオチン化した中和抗体でsingle cell sortで分離し、中和抗体に対する結合活性や中和活性の抑制試験などにより、2種類の抗イディオタイプ抗体が得られた。令和5年度は、さらにアルパカに免疫して、single chain抗体としてライブラリーを作製し、複数の特異性を持った抗体を作製する。令和4年度のオミクロン株の流行に対応して、新たに4種類の中和モノクローナル抗体を分離した(出願番号:特願2022-142801)。これらは、オミクロン株とその亜系統株(BQ.1.1やXBB.1.5)を含むSARS-CoV-2を広範に中和する。令和5年度は、これらの新規中和抗体に対する抗イディオタイプ抗体のパネルの作成を推進する。早期に分離できた1-58抗体及び3-1抗体に関しては、すでに10クローンの抗イディオタイプ抗体候補を選定している。新規抗体に関してもアルパカに免疫して、single chain抗体として、ファージ・ディスプレイライブラリーを作製し、複数の特異性を持った抗イディオタイプ抗体パネルを作製する。中和エピトープに最も類似する構造を持つ抗体を選別し、京都大学の野田教授、橋口教授との共同研究で、抗体の構造解析を行う。絞り込んだパネルを用いて、COVID-19感染者、及び非感染者由来の末梢血B細胞を解析し、交差するイディオトープを持つ細胞を同定する。
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