研究課題/領域番号 |
21H02971
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
加藤 龍一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (50240833)
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研究分担者 |
小澤 龍彦 富山大学, 学術研究部医学系, 准教授 (10432105)
正木 秀幸 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (90247982)
宮下 尚之 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (20452162)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フラビウイルス / 中和抗体 / X線結晶構造解析 / MDシミュレーション |
研究実績の概要 |
ウエストナイルウイルス(WNV)は、時に致死性の脳炎・髄膜炎を惹き起こすフラビウイルス科の蚊媒介性ヒト感染性ウイルスである。世界の広い地域に分布し我が国への感染拡大の危険性が指摘されているが、実用的な治療薬やワクチンは未だ無い。研究分担者らによって見出された WNV に働く中和抗体は、同じフラビウイルス科の日本脳炎ウイルス(JEV)とも交差反応を示すという興味深い性質を持つ。我々はその抗体と WNV のエンベロープタンパク質(Eタンパク質)との複合体の立体構造の決定に成功し、異なるウイルスを同時に認識する抗体の分子機構を明らかにした。その構造基盤を発展させ、(1) フラビウイルス科の各種ウイルスを同時に認識する抗体を開発し、異なるフラビウイルス感染症のどれにも効果のある抗体医薬開発につながる知見を得ること、(2) フラビウイルス科の中の特定のウイルスだけを認識する抗体を開発し、多重感染地域などでどのウイルスに感染しているかを判定できる診断薬の開発につながる知見を得ること、を研究の目的とし、フラビウイルス科の日本脳炎、黄熱病、ジカ熱の各ウイルス(JEV, YFV, ZIKV)のEタンパク質とその中和抗体の認識機構を明らかにすべく、両者のタンパク質複合体の立体構造解析を目指し研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
JEV, YFV, ZIKVのEタンパク質の発現コンストラクトの作成を行った。それらのうち、JEVのEタンパク質については、発現および精製法の確立に成功した。こちらについては大量発現と精製を行い、後述のFab化抗体との複合体を生成する過程である。YFVのEタンパク質については、発現条件の検討を進めている。また、Fab化抗体の大量産生系を確立し、順次生産と精製を行った。 各ウイルスと中和抗体の中和活性測定系の構築のため、それぞれのウイルスに対するプラーク減少法を用いた実験系の構築の準備を進めた。具体的には、JEV Beijing-1株・ZIKV PRVABC59株・Vero細胞9013株の入手、および、それらを培養するための培地・培養容器等の用意を行った。また、四種特定病原体であるJEV Beijing-1株の取り扱いに際して法令で要求されるところの、実験室を容易に消毒することが出来るようにするための実験室壁面の耐水化工事、およびWNV RVPを用いた実験を行うための大臣確認申請を行った。 我々が構造を決定したWNVのEタンパクス質のdomain 3と中和Fab化抗体の相互作用が、他のウイルスで保存されている可能かを検討するため、WNV EのD3とFabの複合体の分子動力学(MD)シミュレーションおよび、JNV EのD3とFabのモデリングおよびMDシミュレーションを実施した。その結果、WNVとJEVでは主たる結合部位はほぼ同様であったが、ある部位において、JEVではWNVで弱い結合をしていた部分の相互作用が無い事がわかった。これがFabのWNV EとJEV Eに対する結合力の違いの原因である可能性を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、JEV, YFV, ZIKVのEタンパク質の大量発現戸精製法の確立を進める。大量生成に成功したものから、Fabとの複合体を作成し、結晶化スクリーニングを行い、結晶構造解析を進めて、その分子認識機構を明らかにする。Fab化抗体の大量生産法は確立したが、さらにその改善についても検討を行う。中和活性測定法については、その準備を引き続き進め、できるだけ早くに測定ができるようにする。MDシミュレーションについては、今までの結果についてさらにその詳細について調べ、JEV Eタンパク質への結合強化のための変異型Fabの提案、YFV, ZIKV, DNV のEタンパク質とFabの複合体モデリングおよびそのMDシミュレーションについて検討する。
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