研究課題/領域番号 |
21H02974
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
橋本 直子 千葉大学, 大学院医学研究院, 助教 (10724875)
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研究分担者 |
田中 知明 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (50447299)
OSHIMA JUNKO 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任教授 (80792275)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞老化 / IncRNA / 転写因子p53 / 脂肪細胞 / 加齢性疾患 |
研究実績の概要 |
p53は老化と対極的な未分化性の維持にも重要であるため、今年度は幹細胞性制御とがん抑制の接点で作用するp53とlncRNAに着目して、p53誘導型lncRNAによるヒトES細胞の生存と未分化性の維持機構に関する検討を行った。ヒトES細胞でp53誘導型lncRNA群を同定し、lncRNA-1に着目して解析を進めた。ヒトES細胞にlncRNA-1を発現誘導すると未分化性が失われ、scRNA-seq解析ではTGF-βおよびその下流遺伝子の発現が増加し、筋芽細胞/線維芽細胞様の特徴に変化することが明らかになった。さらにlncRNA-1の結合因子探索では、POU5F1、SALL1/4など未分化性維持に重要な分子が含まれていた。従って、lncRNA-1が多能性の抑制、TGF-βシグナルの増強を介して、ゲノムストレス下のヒトES細胞において細胞死と分化のバランスを制御して、ゲノム安定性に関与することが示唆された。 また、lncRNAはmicroRNA(miRNA)スポンジとして機能することが知られている。そこで、がんと老化の接点となるmiRNAに着目して、がん抑制型miRNA、miR-874のヒト乳がん細胞におけるがん抑制のメカニズムを検討した。MCF-7にmiR-874を発現させてRNA-Seqを行うと、p53経路やMyc経路の亢進と、メバロン酸経路の抑制がみられた。MCF-7にmiR-874を導入するとp53/c-Myc依存的な細胞死が誘導された。また、SREBF2とホスホメバロン酸キナーゼ(PMVK)がmiR-874の標的遺伝子であることが明らかとなった。さらにPMVKをサイレンシングするとp53依存的な細胞死が認められた。以上から、miR-874は乳がん細胞においてPMVKを標的としてメバロン酸経路を抑制し、p53依存的な細胞死誘導を介してがん抑制的に作用することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、内分泌臓器としての脂肪細胞や血管内皮における老化依存的p53-lncRNA複合体に焦点を当て、細胞老化による機能変容におけるp53-lncRNAの役割とそのエピゲノム制御メカニズムを明らかにすることを目的としている。 今年度は、老化と対極にある未文化性維持に関わるp53誘導型lncRNAや、がんと老化の接点となるmiRNAに着目して、その作用機構の研究を推進した。本研究では、乳がん細胞株や乳がん症例データベースを用いた解析により、miR-874がSREBF2とPMVKを標的としてメバロン酸代謝経路を抑制し、p53依存的な細胞死誘導を介してがん抑制的に作用するこという新規の知見が得られ、論文発表することができた。本研究成果はmiR-874を用いた治療への応用や核酸医薬品注の開発へつながることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
The engineered ascorbate peroxidase (APEX2)を用いた近接依存性標識法は、APEX2と呼ばれるラジカル反応を促進するperoxidaseを用いて、その半径 20 nm以内をビオチン化し、生細胞内でタンパクの配置や相互作用を解析する手法である。昨年度、各種オルガネラ局在モチーフが組み込まれたAPEX2プラスミドを293T細胞にtransfectionして、細胞免疫染色で局在を確認した。今後は、核局在シグナルを持ったAPEX2 vectorやp53とAPEX2を融合したAPEX2-p53タンパクを老化線維芽細胞や血管内皮、脂肪前駆細胞に発現させて、核内のp53-lncRNA複合体のコンポーネントを同定する予定であり、幹細胞性と対比させて老化におけるp53-lncRNA複合体の役割とそのエピゲノム制御機構を明らかにしていく。
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