研究課題/領域番号 |
21H02981
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
池田 和博 埼玉医科大学, 医学部, 准教授 (30343461)
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研究分担者 |
井上 聡 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究部長 (40251251)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / 代謝 / がん |
研究実績の概要 |
がん細胞は盛んに増殖・活動するために必要なエネルギー・核酸等を供給するため、正常細胞とは異なる特徴的な代謝変化(解糖系やグルタミン酸代謝の亢進)を有する。このような代謝の変容は増殖、転移、薬剤耐性などのがんの異なる個別の特性(多様性)ならびに腫瘍内での不均一性に関わる要因であり、患者予後にも関わることが想定される。このような観点を踏まえ、がんの病態を代謝の視点から分子メカニズムのレベルで理解することは、診断・治療法の開発の上で極めて重要であると考えられる。また、がん細胞周囲の間質細胞などからなるがん微小環境も腫瘍制御に関与しており、これら両者におけるメカニズムの解明ががんの本態解明に必要である。我々はエストロゲン応答遺伝子COX7RPがミトコンドリア呼吸鎖超複合体の形成促進因子であることを発見し、がん細胞の生存に有利な代謝変容とエネルギー産生の亢進をもたらすことを見出した。また、COX7RP遺伝子改変マウスの解析により、脂肪細胞や骨格筋のエネルギー代謝における重要な生理機能を解明している。これらのことから、ミトコンドリア呼吸鎖超複合体はがん細胞と微小環境の両者におけるクロストークを制御し、治療薬抵抗性や予後に関わることが想定される。本研究では、ミトコンドリア呼吸鎖超複合体というこれまでにない新しい視点からアプローチし、腫瘍病態メカニズムの解明と、治療・診断への応用を目指している。さらに、腫瘍細胞と微小環境の相互作用・ネットワークを担う細胞内・外シグナル分子について、特に、細胞増殖因子、サイトカイン、ホルモン、内分泌因子、神経伝達因子、免疫制御因子に着目し、ミトコンドリアATP合成、ROS産生、酸素消費の測定と、呼吸鎖超複合体の形成への影響を解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数種のがん培養細胞株を用いてCOX7RPの発現機能解析を進めている。また、ミトコンドリア呼吸鎖超複合体を制御する上流のシグナル経路について解析を進めている。さらに、倫理基準を満たしたがんの臨床検体より三次元スフェロイド培養を行い、patient-derived cancer cell (PDC)の樹立を目標に培養を行っている。これらのことより、研究はおおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
解析によって明らかにされる候補遺伝子に関して、倫理基準を満たしているがんの臨床サンプルにおける発現を免疫組織化学により評価し、組織型、グレード、リンパ節転移、腫瘍径などの病理学的パラメーターならびに患者予後との相関を解析し、ミトコンドリア代謝調節と乳がん、子宮体がんにおけるシグナル経路の解析を進めていく。 また、上述の解析で明らかにされる腫瘍細胞と微小環境の相互作用・ネットワークを担う細胞内・外シグナル分子について、特に、細胞増殖因子、サイトカイン、ホルモン、内分泌因子、神経伝達因子、免疫制御因子に着目し、ミトコンドリア呼吸鎖超複合体の形成を支配する上流シグナル・調節因子群を推定する。さらに、同定される候補因子について、阻害剤や小分子核酸による腫瘍治療効果をPDC (patient-derived cell)、PDX (patient-derived xenograft)の系を用いて検討する。これらのデータを統合的に解析し、腫瘍増殖・転移に及ぼすミトコンドリア呼吸鎖超複合体・代謝の役割を解明する。
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