研究課題/領域番号 |
21H02991
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
小池 直人 横浜市立大学, 医学研究科, 客員教授 (50301081)
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研究分担者 |
田所 友美 横浜市立大学, 医学部, 助教 (20507644)
村田 聡一郎 横浜市立大学, 医学研究科, 客員准教授 (40436275)
小林 達哉 横浜市立大学, 医学研究科, 特任助手 (60837839)
谷口 英樹 東京大学, 医科学研究所, 教授 (70292555)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高次肝組織 / 神経 / 血管 / 門脈域 / iPS細胞 |
研究実績の概要 |
ヒトiPS細胞由来の肝前駆細胞(hiPS-HE)、血管内皮細胞(hiPS-EC)、間葉系幹細胞(hiPS-STM)に加え、hiPS細胞から誘導した神経幹細胞(hiPS-NCC)を共培養し、胆汁分泌可能な胆管、および動静脈、神経からなる門脈域を有する微小肝組織構築を試みた。4種類の細胞の割合や、混合のタイミングを調整し、vitroではアルブミン産生能を低下させない条件が確立できたが、この混合培養法では、胆管、血管、神経が伴走して走行する門脈域を構築することはできなかった。 生後早期のマウスを用いた肝門脈域の組織発生を神経、胆管、血管のマーカーに対する免疫染色にて検討した結果、肝内胆管と神経は共に、出生前後に肝門近傍の門脈周囲間質から発生し、門脈域を形成しながら、肝末梢に向かって成長していくと思われた。そこで、hiPS-NCCを初めから肝芽に加えるのではなく、hiPS-HE、hiPS-EC、hiPS-STMからなる肝芽をhiPS-NCCを3次元培養して得られた神経線維の上で培養した。共培養7日目で、免疫染色を行い観察したところ、CK19陽性の胆管細胞に分化した集団が、球状の肝芽から神経、血管の伴走した胆管状の突起を形成しながら、門脈域様の形態を呈する所見が観察できた。 この培養系にてできた細胞集団をそのまま、マウス頭蓋に作成したクラニアルウィンドウ(CW)に移植し成長を観察した。hiPS-NCCにはGFPを、hiPS-HEにはKOを導入し可視化できるようにした。また、ローダミンデキストランを静注することにより、CW内で構築した組織の血流を可視化した。その結果、移植後28日までに移植組織はhiPS-ECからなるホストからの血流を有する微小血管を形成していた。hiPS-NCCは一部でこの微小血管周囲を取り巻き、hiPS-HEからなる管状構造にこの血管が伴走している所見も認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
hiPSから細かな諸条件を最適化しながら自律神経としてhiPS-NCCを分化作成する効率は最大80%まで向上した。 vitroで肝芽を作成する際の各細胞の比率は、hiPS-HE:hiPS-EC:hiPS-STM:hiPS-NCC=10:7:1:1を基本に変化させ試行錯誤していたが、結局、NCC無しで作成した微小肝芽をhiPS-NCCを3次元培養して得られた神経線維の上で培養する条件で門脈域を構築するための良い結果が得られた。前述したごとく、vitroでは共培養7日目で細胞を固定し免疫染色を行い観察したところ、CK19陽性の胆管細胞に分化した集団が、球状の肝芽から神経、血管の伴走した胆管状の突起を形成しながら、門脈域様の形態を呈していることがvitroの肝芽で観察できた。hiPS-NCCを加えない群ではこの突起の形成は明らかではなかった。 この培養系にてできた細胞集団をそのまま、マウス頭蓋に作成したCWに移植し、vivoでも肝芽の成長を観察した。その結果、移植後28日までに移植組織はhiPS-ECからなるホストからの血流を有する微小血管を形成していた。hiPS-NCCは一部でこの微小血管周囲を取り巻き、hiPS-HEからなる胆管を思わせる管状構造にこの血管が伴走している所見も認められた。生体の正常門脈域では神経線維が複雑に神経叢を形成しながら胆管周囲を取り囲んでいるが、これまで生体内では見られなかった胆管と血管の伴走という門脈域様の構造を確認することができ、まずは、順調な進捗であると考えられる。現在構築された組織をパラフィン包埋し薄切組織標本でも形態や細胞の由来を確認中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、動静脈や、門脈、胆汁分泌が可能な胆管構造を有するヒト型高次肝組織の構築を目指す為に、より安定してhiPS細胞から肝組織構成細胞への分化誘導ができるプロトコル改変を目指し、クローンの変更、細かな諸条件の検討、他の文献のプロトコルの検討などを実施してきた。その結果、生体内でも門脈域様の構造が観察され、血流も認められるようになった。しかし、胆汁分泌等の肝としての機能を確認するまでには至っていない。また、安定してこの構造を作成することはできておらず、細かな諸条件の再設定が必要である。 臓器再生を行うには、生体での臓器の発生過程を詳しく解析する必要がある、これまで発生各過程の固定組織から作成した薄切組織標本を用いてこの評価を行なっていた。しかし、より正確に肝内の神経動脈の発生を3次元で再評価するために、遺伝子改変マウス等の生体ホールマウントイメージングで肝内神経動脈の発生観察を行う。この観察結果を上記の細かな諸条件の再設定に取り入れる予定である。 また、最近、肝再生には自律神経の中でも副交感神経が重要であることが報告されている。そこで、hiPS-NCCの副交感神経系への分化誘導を試みる予定である。更に、神経細胞の有用性を定量するために、hiPS-NCCを加えていない場合と加えた場合とでの結果を比較する実験も必要と考えている。 今回の実験系では胆管様の構造は見られているものの、肝機能の軸となる肝細胞索の構築が確認されておらず、長期安定して生体内で機能する高次肝組織の構築を目指すために、移植部位、移植方法にも検討を重ねる予定である。新たに構築できた神経系を有する高次肝組織の機能を評価するために、肝障害マウスを用いた実験が必要と考えている。このように、最終的にヒトの再生医療への利用を目指すため、プロトコルをより改良して肝芽形成実験を行っていく。
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