研究課題/領域番号 |
21H02996
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
海野 倫明 東北大学, 医学系研究科, 教授 (70282043)
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研究分担者 |
古川 徹 東北大学, 医学系研究科, 教授 (30282122)
阿部 高明 東北大学, 医工学研究科, 教授 (80292209)
青木 修一 東北大学, 大学病院, 助教 (30844451)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / メタゲノム解析 / 膵癌 / 胆管癌 / 術前化学療法 |
研究実績の概要 |
本研究は、「膵胆管癌の術前治療(Neoadjuvant therapy:NAT)中の腸内細菌叢のメタゲノム解析を行うことで、腸内細菌叢の新規バイオマーカーとしての有用性を示すこと。また腫瘍内免疫環境の網羅的解析により、腸内細菌叢の変化が抗腫瘍免疫に与える影響を解明すること」を目的としている。当科が主任研究施設として行なった第III相試験(PREP02/JSAP05試験)では、gemcitabineとS1療法(GS療法)を用いたNATの有効性が世界で初めて証明されたが、NAT治療抵抗を示す症例は確実に存在し、それらの予後は悪い。次世代の治療として、NAT治療耐性の克服が最大の課題であり、治療抵抗を示す指標としてCA19-9などの腫瘍マーカーの推移が有用であることを本グループから報告している(Aoki S et al, BMC cancer)。本研究では、CA19-9がNAT 中に減少し治療効果を認めた症例とCA19-9の減少を認めず治療抵抗を示した症例、それぞれ5例ずつのNAT前後での腸内細菌叢のメタゲノム解析を行った。現在解析中であり、NATの治療効果を反映する腸内細菌の新規バイオマーカーを検索している。 また、近年、肝胆膵領域癌における腸内細菌叢の特異性が指摘されており、さらに、腸内細菌種の多様性を示すOTU値が高いほど、化学治療効果が高く、長期生存を得られるとの報告を認める。本研究では膵癌以外に胆道癌や健常者の便サンプルも収集し、解析を行なった。これらの結果より、癌種特異的な腸内細菌種の同定や、多様性の評価を行い、それがどのように予後と関わるか明らかにできると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
NAT 期間中にCA19-9が減少し治療効果を認めた症例5例とCA19-9の減少を認めず治療抵抗を示した症例5例の計10例において、NAT前後での便サンプルを採取し、16Sショットガンシーケンス解析を行なった。また、胆道癌患者及び健常者患者、10例ずつの便サンプルを採取し、同様に腸内細菌の網羅的解析を行なった。現在、これらのデータ解析中を行なっている。α, β多様性解析、OTU解析を行い、癌種による腸内細菌叢の違いを明らかにし、膵癌のN A T治療効果予測において、腸内細菌叢の特異的な菌種の同定や、細菌叢の多様性の関与を明らかにする。また、全エクソン解析によるメタボローム解析により、細菌の代謝や酵素活性の側面から上記結果を明らかにする。 コロナにより手術患者数の減少が見られ、サンプルの収集が当初の予定より少なかった。そのため膵癌以外の癌である胆管癌の便サンプルを収集し、同様の解析を行うこととした。今後は、胆膵領域癌に対する細菌叢のデータベースを設立し、新たなバイオマーカー検査や新規薬剤の開発を行う。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、胆道癌、膵癌の便サンプルを収集し、大規模な腸内細菌データベースを作成することである。肝胆膵領域癌で、大規模な腸内細菌データベースを作成する試みは世界初と思われる。それらをもとに、癌種による腸内細菌叢の違いや治療効果バイオマーカーを明らかにできる。 一方で、切除サンプルのFFPEサンプルからDNAを抽出し、腫瘍内微小環境のゲノム変化や免疫細胞を目的とした免疫組織学的評価と、腸内細菌叢の関係性を明らかにする。腫瘍内環境に直接関与する菌種が同定できたら、無菌マウスを用いた実験により、腸内細菌の変容により腫瘍増殖能や治療効果に変化を認めるか、明らかにする予定である。 我々は、遺伝子改変マウスモデルを用いた膵胆管癌の同種同所マウスモデルをすでに保有しており、特定の細菌叢が定着したノトバイオートマウスと無菌マウス(GF)を用いることで、その細菌叢が治療効果に与える影響を明らかにできる。膵胆管癌の標準治療法である、Gemcitabine+S1療法やGemcitabine+Cisplatin療法をマウスに投与し、マウス腸内細菌叢の違いによる治療効果の違い、予後の違いを検証する。 現在はコロナの影響もあり、当初の実験計画からはやや遅れている。しかし、一部サンプルの解析が終了し、サンプル収集から解析までのノウハウが確立した。今後、便のサンプル収集のスピードは加速するものと思われる。本年度中には、サンプルのさらなる集積と、解析結果をもとにしたマウス実験まで行えるように努力する予定である。
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