研究課題
ヒトおよび動物モデルを用いた解析において,autophagy調節因子p62がNASHの進展と肝癌の発生に関与する可能性が示唆されているが,その詳細は不明である.本研究は,p62のNASHの進行と肝癌における役割を明らかにすることを目的とし,ヒト肝癌臨床標本を用いて免疫組織学的解析を行った.肝切除術を施行されたNASH肝癌50例,慢性C型肝炎から発生した肝癌49例,大腸癌肝転移48例である.これらの癌部および非癌部(背景肝)を含む肝癌臨床標本について,p62の免疫組織学的解析を行って患者情報および病理学的特徴(非癌部のsteatosis activity fibrosis; SAF score,腫瘍の悪性度)との関連を解析したp62は,肝癌,大腸癌いずれにおいても非癌部と比較して癌部で強く発現していた.NASH非癌部(肝硬変部)のp62発現強度は正常肝と差がなかったが,慢性C型肝炎非癌部ではp62の発現が有意に低下していた.非癌部のp62の発現強度は血小板数と正の相関を,病理学的肝脂肪化scoreと負の相関を示した.また,非癌部でのp62の染色局在が細胞質に優位な症例は,核に優位な症例と比較して,病理学的な肝炎症および肝線維化が高度であった.一方,癌部でのp62の発現強度と局在は,癌の悪性度,T因子,腫瘍マーカーと有意な相関は認められず,NASH肝癌と慢性C型肝炎肝癌の間でも有意な差は認められなかった.p62はNASHの進行に対して防御的に機能し,その進行とともにp62の発現低下や局在変化による機能異常により,肝癌が発症する可能性が示唆された.一方,肝癌におけるp62は原因疾患や悪性度との有意な相関を認めなかったが,非癌部と比較して強い発現が認められることから,癌部におけるautophagy障害や酸化ストレス応答亢進が存在する可能性が示唆された.
2: おおむね順調に進展している
令和4年度はNASH発症・進展と肝発癌におけるp62の役割について,臨床標本の解析を実施することで臨床からのアプローチを行い,研究成果を得ることが出来た.
ヒト肝臓標本を用いた研究では,p62の免疫組織学的解析もほぼ完了しており,今後更に患者情報との相関解析を追加していく予定である.
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件)
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