研究課題/領域番号 |
21H03016
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
岩崎 清隆 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20339691)
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研究分担者 |
國原 孝 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (80725268)
大木 隆生 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (50260948)
宿澤 孝太 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (80647032)
坪子 侑佑 早稲田大学, 理工学術院, 次席研究員(研究院講師) (40809399)
弓場 充 早稲田大学, 理工学術院, 助手 (50875367)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 小口径グラフト / 脱細胞化血管 / 脱細胞化処理 / 組織工学 |
研究実績の概要 |
本研究では、研究代表者が開発した厚い組織の組織構造と強度を保持する脱細胞化技術と滅菌技術を基盤とし、力学的特性を保持した内径3mm程度の小口径血管を開発し、大動物実験で3カ月間血栓閉塞が起こらず開存する脱細胞化グラフトを実現することを目的としている。1年目の本年度は、研究者代表者の基盤技術を応用してウシ小口径動脈血管を脱細胞化処理および滅菌処理し、組織構造と力学的特性を保持する処理条件の決定を目指した。また、ヒト血液を循環する拍動循環回路を開発し、脱細胞化動脈血管の血栓性を評価した。 具体的には、内径3mmで長さ20cmのウシ由来動脈血管を、マイクロ波照射および拍動循環の双方を同時に作用させ、低濃度の界面活性剤溶液を用いて脱細胞化処理する方法を研究開発した。脱細胞化後のDNA残留量は、乾燥組織重量当たり8ng/mgとなり、米国で市販されている脱細胞化ブタ小腸粘膜下組織の臨床経験で炎症が起こらない基準とされている乾燥重量当たり50ng/mgと比較して顕著に少ない安全性の高い脱細胞化血管を作製することを達成した。さらに、血管組織の構造を保持する乾燥条件を見出すことができた。 脱細胞化、乾燥、滅菌処理をして再水和した脱細胞化小口径動脈血管について内圧と径の関係を計測してスティッフネスパラメータを算出した結果、未処理の血管と同等のスティッフネスに維持できることがわかった。 さらに、血液性状を保持可能な完全大気非接触でヒトの冠動脈前下行枝の血流・血圧を模した血液循環シミュレータを開発し、ヒト健常ボランティアから採血した新鮮血液を循環させ、脱細胞化動脈血管の血栓性を評価した。その結果、未処理の脱細胞化血管では血栓閉塞したが、ヘパリン処理した脱細胞化血管では開存し、血栓形成を抑制し得る知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度は、(1) 研究者代表者の基盤技術を応用してウシ小口径動脈血管を脱細胞化処理および滅菌処理し、組織構造と力学的特性を保持した脱細胞化小口径動脈血管を開発すること、(2) 血液循環シミュレータを開発して脱細胞化動脈血管の血栓性について評価することを目的とした。 (1) 組織構造と力学的特性を保持した脱細胞化小口径動脈血管の研究開発については、対象とする組織が小口径の筒状であることを踏まえ、拍動循環を血管の内腔側と外壁側の両方に作用できる組織保持具を開発して、脱細胞化処理を行った。その結果、血管の脱細胞化後のDNA残留量は、乾燥組織重量当たり8ng/mgとなった。米国で市販されている脱細胞化ブタ小腸粘膜下組織の臨床経験で炎症が起こらない基準とされている乾燥重量当たり50ng/mgと比較して顕著に少ない安全性の高い脱細胞化血管を作製することを達成できた。さらに、滅菌するために事前に組織を乾燥処理するプロセスが必要であるが、本研究で血管組織の構造を保持する乾燥条件を見出すことを初年度に達成できた点は、当初の研究計画以上に進んだ点として特筆できる。動物試験に使用する組織となる脱細胞化処理して乾燥処理して滅菌処理をして再水和させた脱細胞化小口径動脈血管のスティッフネスは未処理血管と同等に維持できることが判明し、2年目から本格的に実施する動物実験をスムーズに行う基盤データを取得できた。 (2) 血液循環シミュレータを開発して脱細胞化動脈血管の血栓性について評価する研究については、倫理委員会の承認を得て実施した。ヘパリン処理した脱細胞化血管は1時間の血液循環において開存することが本研究から判明し、動物実験に向けて血栓形成を抑制する処理を適正化するための評価試験機器として有用であるという知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に、組織構造と力学的特性を保持した脱細胞化小口径動脈血管を作製する条件を開発できた。2年目の令和4年度は、ブタを用いた大動物実験による血管の開存性評価、内腔の内皮細胞化、脱細胞化血管への生体内での細胞浸潤に関する評価を行う。令和4年度は、下肢動脈血管のバイパスの動物実験による評価を行う。下肢バイパスに用いる脱細胞化動脈血管の長さは10cm程度とする。1カ月開存できた時点でブタを犠牲死させて脱細胞化動脈血管を摘出して組織染色を行い、血管内腔の内皮細胞による被覆の有無と程度、動脈血管組織内の微小血管の構築の有無と程度(数や直径)、平滑筋細胞、線維芽細胞の浸潤の程度を評価する。動物実験による評価において血栓性に課題がでてくる場合には、初年度の令和3年度に研究開発した血液循環シミュレータを用いて、血栓形成を抑制する処理を開発していく。
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