わが国において慢性痛は高い有病率を示し、莫大な経済コストが大きな社会問題となっている。慢性痛の多くは難治性であり、新たな治療法の確立が急務である。 Gタンパク質共役型受容体キナーゼ(GRK)2は細胞内情報伝達機構に関わるタンパクキナーゼの一種であり、これまでの研究で、GRK2が鎮痛機構の起点として働くことを示している。我々は、慢性痛モデルにおいて一次知覚神経にミトコンドリアストレスが生じることを報じている。本研究ではGRK2とGRK2に制御されるシグナル因子の一群(GRK2インタラクトーム)と慢性痛の関連についてミトコンドリアストレスと関連して解析をすすめる。 GRK2インタラクトームの網羅的解析を実施した。従来、GRK2はGタンパク質共役型受容体(GPCR) をリン酸化し、脱感作させる機能が知られていたが、現在ではGPCR以外の受容体タンパクや細胞内情報伝達物質などさまざまな細胞内シグナル分子に同時多発的に作用することが明らかにされている。現状では、GRK2がどのようなシグナル分子に影響して鎮痛効果を発揮するか不明であり、術後痛モデルラットにGRK2阻害剤を投与し、後根神経節におけるリン酸化タンパクの網羅的解析を行った。その結果、Vehicle投与群に対してリン酸化の程度が異なる分子が複数同定された。 さらに、術後痛が慢性化するモデルの1つとして、オピオイド誘発性術後慢性痛モデルを開発した。モルヒネを7日間にわたり連続投与した後に術後痛モデルを作成すると痛覚過敏が遷延することを確認した。 オピオイド誘発性術後慢性痛モデルにおいて、GRK2とミトコンドリアの双方が機能変化を来していることを示し、慢性痛の発症にGRK2とミトコンドリアの機能連関が関与する可能性を明らかにした。
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