本研究では、敗血症-腸内細菌叢の攪乱-ナイアシン産生障害を基軸とした敗血症の新規病態生理を実証するとともに、それをもとにした新規治療戦略の構築を目指す。2023年度は、(1) これまでの研究成果を活用した敗血症マウスモデルに対する新規治療介入、(2) ニコチン酸アミドを補充することの効果の検討を進めた。 (1) 敗血症モデルマウスに対する新規治療介入 2022年度までの研究で、敗血症モデルマウスの血清中で増加/減少している代謝産物を網羅的に解析し、腸内細菌叢によるトリプトファン代謝産物が有意に減少していることを明らかにした。また、トリプトファンからのニコチンアミド生合成に必要な酵素の遺伝子群が、敗血症モデルマウスの腸内細菌叢において低下していることを明らかにした。これとは別に、我々はニコチンアミド生合成に関与する腸内細菌叢を増やす効果のあるプレバイオティクスを見出していたため、敗血症モデルマウスに摂取させることで、代謝プロファイルや生存率が改善しうるのかを検討した。その結果、腸内や血液中でのニコチンアミド生合成の改善を認めることはできなかったが、肝臓においてニコチンアミドの増加を認め、生存率の改善を認めた。 (2) ニコチン酸アミドを補充することの効果の検討 敗血症モデルマウスに、ニコチンアミド生合成に関与する腸内細菌叢を増やす効果のあるプレバイオティクスを摂取させることで生存率が改善したため、ニコチン酸アミドを薬剤として投与することでも、生存率を改善させることができるかどうかを検討したが、残念ながらそのような効果は認められなかった。培養血管内皮細胞に敗血症患者血清を添加した際の変化、およびニコチン酸アミドを補充することの効果についても in vitro で検討する予定だったが、2023年度にそこまで完了させることはできなかった。
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