グリオブラストーマの再発を防ぎ長期予後改善を目指す上で、腫瘍中のがん幹細胞を標的とする治療法の開発は一つの重要なカギを握るものと考えられている。申請者らはこれまで独自のグリオーマ幹細胞研究を展開し、シグナルキナーゼJNKの活性を阻害することでグリオーマ幹細胞の幹細胞性を、ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化(OXPHOS)を阻害することでその生存を、それぞれ抑制できることを示してきた。本課題ではこれらの知見を踏まえ、JNK阻害薬とOXPHOS阻害薬のそれぞれについて既存薬のスクリーニングを行いつつ、グリオーマ幹細胞の幹細胞性ないし生存を抑制できる薬剤を広く探索することを通じてこれまでに得ているものよりもさらに高いレベルで効果と安全性の両立を期待できる薬剤の同定を目指す。 2021年度については、JNK阻害薬、OXPHOS阻害薬のスクリーニングを通じて候補薬を幾つか見出しさらなる詳細な解析へと進める傍ら、葉酸代謝がグリオーマ幹細胞の生存維持に重要な役割を果たしていることを見出し、葉酸代謝拮抗薬であるメトトレキセートがグリオーマ幹細胞に対して選択的な殺細胞効果を持つことを明らかにした。さらにグリオーマの動物モデルを用いて、メトトレキセートが単独では腫瘍内のグリオーマ幹細胞を有効に減少できないのに対して、グリオーマ幹細胞に対し分化誘導効果を持つJNK阻害薬と組み合わせることでJNK阻害薬のグリオーマ幹細胞減少効果を増強できることを明らかにした。この結果は、がん幹細胞殺傷薬単独治療では腫瘍中の非がん幹細胞の再幹細胞化によりその治療効果がキャンセルされるのに対し、分化誘導薬を併用すると再幹細胞化が抑制されるためがん幹細胞殺傷薬による治療効果が分化誘導薬による治療効果に上乗せされる可能性を世界に先駆けて示唆するものとなった。
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