研究課題
がんの再発や転移の原因として、がん幹細胞の存在が注目されている。がん幹細胞は、自己複製能と通常のがん細胞への分化能を備え、治療に抵抗性を示す。我々は、グリオーマ、転移性脳腫瘍、および肺癌の病巣からがん幹細胞を樹立し、新しい分子標的(ムコリピン)を発見した。さらにムコリピンの抑制薬の化学構造をもとに、がん幹細胞の増殖を抑制できる新薬を創出した。正常細胞において、ムコリピンは細胞内のエンドソームに分布する。しかし、我々は電気生理学および免疫組織学的手法を用いて、ムコリピンが、がん幹細胞の細胞膜に局在することを見いだした。細胞膜に分布するムコリピンは、Naイオンを細胞内に流入させる。Naイオンは水の浸透流を引き起こすため、細胞容積が増加する。細胞容積は細胞の増殖や遊走に関わるため、ムコリピンの特異な分布は、がん幹細胞の機能に重要な意義をもつと考えられる。一方で、細胞外からムコリピンに作用する薬剤は、がん幹細胞を特異的に処置できると考えられる。また、ムコリピンはがん幹細胞に特異的なバイオマーカーになりうる。それらの成果を踏まえて、ムコリピンについてがん幹細胞における細胞生物学的意義を検証した。shRNAレンチウイルスベクターを用いて、がん幹細胞におけるムコリピン遺伝子をノックダウンすると、細胞の増殖が抑制された。また、HEK293細胞にムコリピンをコードする遺伝子をトランスフェクションし、安定発現細胞を作製した。その細胞にムコリピン抑制薬を処置すると、細胞増殖の抑制効果が増強した。以上の結果は、ムコリピン抑制薬はがん幹細胞を特異的に処置できることを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
ムコリピンの発現とがん幹細胞の増殖の関連を明らかにした。ムコリピンはがん治療の標的になりうる。
免疫組織化学法を用いて、悪性グリオーマおよび転移性脳腫瘍の病理組織標本におけるムコリピンタンパク質の発現量と分布を調べる。特に、既存のがん幹細胞マーカーとの共発現に注目する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (50件) (うち招待講演 3件)
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