研究課題
がんの再発や転移の原因として、がん幹細胞の存在が注目されている。がん幹細胞は、自己複製能と通常のがん細胞への分化能を備え、治療に抵抗性を示す。我々は、転移性脳腫瘍の病巣からがん幹細胞を樹立し、新しい分子標的(ムコリピン)を発見した。そしてムコリピンの作動薬から、がん幹細胞を死滅させることができる薬剤を同定した。正常細胞において、ムコリピンは細胞内のエンドソームに分布する。しかし、我々は電気生理学および免疫組織学的手法を用いて、ムコリピンが、がん幹細胞の細胞膜に局在することを見いだした。細胞膜に分布するムコリピンは、Naイオンを細胞内に流入させる。Naイオンは水の浸透流を引き起こすため、細胞容積が増加する。細胞容積は細胞の増殖や遊走に関わるため、ムコリピンの特異な分布は、がん幹細胞の機能に重要な意義をもつと考えられる。一方で、細胞外からムコリピンに作用する薬剤は、がん幹細胞を特異的に処置できると考えられる。また、ムコリピンはがん幹細胞に特異的なバイオマーカーになりうる。以上の成果を踏まえて本研究は、ムコリピンをコードするMCOLNについて、RNAシーケンス解析で、遺伝子発現量、融合遺伝子、スプライシングバリアント、および点変異を調べた。肺癌脳転移の4患者由来のがん幹細胞株における、分子の発現量は、MCOLN1 (17 TPM) > MCOLN3 (16 TPM) > MCOLN2 (3 TPM)の順位であった。また、4患者に共通する変異は検出されなかった。野生型のムコリピンが転移性脳腫瘍の病態発生に関与する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
転移性脳腫瘍のがん幹細胞におけるムコリピンの分子基盤を明らかにした。
免疫組織化学法を用いて、転移性脳腫瘍の病理組織標本におけるムコリピンタンパク質の発現量と分布を調べる。特に、既存のがん幹細胞マーカーとの共発現に注目する。
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