研究実績の概要 |
我々は, 関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis; RA)の滑膜で, 有害性老化細胞を中心とした微小環境「老化細胞ニッチ」の形成がRA滑膜炎の真の病態像である可能性に辿り着いた. 本研究では, 1) RA滑膜の老化細胞ニッチを解明する. ついで, 2)老化細胞ニッチの破壊による滑膜炎制御法を確立し, 炎症を抑えた滑膜に3)組織の再生を促すヘルパー老化細胞を誘導することで滑膜を“関節構造の再生の場”へと変容し, 骨・軟骨の再生を促すことで構造的寛解を超えて再び機能する関節の獲得を目指す. 令和3年度はまず、老化細胞ニッチの解明として, RA患者滑膜を採取し,組織学的解析により老化細胞の同定を行った. RA患者滑膜には複数の細胞老化因子を発現する細胞が存在し, 周辺に増殖性の高い細胞の集積を認めた. In vitroにおいても、RA由来の老化細胞の周辺で増殖性の高い細胞が集積し、アポトーシス 抵抗性、MMPなど関節破壊に関連する因子の上昇を認めた. そのため、令和4年度は、RA患者滑膜の細胞を滑膜組織由来のfibroblast like synoviocytes(FLS)を単離し,老化細胞と非老化細胞の共培養を実施し, 老化細胞ニッチの表現形を解析した. さらに, 公共データベースからRA患者サンプルのSingle cell RNA -seqデータを入手し, 老化細胞ニッチの網羅的解析を行い、そこから老化細胞が形成する細胞間コミュニケーション解析としてCellChatを用いて実施し、シグナルの同定を行った。また、関節リウマチマウスモデルを作成し、滑膜組織の解析を行ったところ、炎症がプライミングされた場合に、老化細胞が増加することがわかってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は, RA患者滑膜のSingle Cell RNA-seq解析データを入手し, 老化細胞ニッチの解析を進められたと同時に, 関節リウマチマウスモデルの作製により, in vivoでの検証も進めることができたことから, 概ね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
老化細胞ニッチが関節炎の発症と進行に関与するかを明らかにするため, 令和4年度に関節リウマチモデルマウスおよびRNA-seqデータ解析を実施し、老化細胞ニッチの再現とニッチ因子の同定を行った. 結果, 老化細胞ニッチの再現には, 炎症のプライミングが重要であることがわかった. 令和5年度は、同定した老化Fibroblast-like synoviocyte(FLS)と増殖性FLS集団が老化細胞ニッチを形成するか明らかにするため, 各細胞集団についてフローサイトメトリーを用いて単離し, それぞれの細胞集団を共培養して, 表現形を解析する. 老化細胞ニッチの形成は, 老化細胞の周辺細胞における細胞増殖, アポトーシス抵抗性, 免疫回避性, MMPなどの関節破壊に関連するタンパク発現レベルの亢進をもって評価する. 次に, 老化細胞ニッチを形成した細胞集団からRNAを抽出し, RNA-seq解析にて網羅的な遺伝子発現量解析を行ことで, 老化細胞ニッチが形成された時に特異的に増加するニッチ因子の同定を試みる. 次に、同定した複数の老化細胞ニッチ因子をCRISPR-Cas9またはsiRNAを用いてそれぞれノックアウト/ノックダウンし, 老化細胞ニッチの形成が阻害されるか?老化細胞ニッチを形成する細胞の細胞死を誘導できるか?を検討することで, 老化細胞ニッチの弱点を同定する. 最後に、同定した老化細胞ニッチの弱点をもとに, In Vitroにおける老化細胞ニッチ標的薬の同定を行う. 老化FLS, 増殖性FLS, またそれらを共培養したFLSをそれぞれ364wellに播種し, 各種FDA承認薬を添加し, 生存率の割合を定量する.
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