研究課題/領域番号 |
21H03053
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松田 秀一 京都大学, 医学研究科, 教授 (40294938)
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研究分担者 |
伊藤 宣 公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構(臨床医学研究所 臨床医学研究開発部), クリニカルサイエンスリサーチグループ, 研究員 (70397537)
西谷 江平 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (70782407)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高位脛骨骨切り術 / マイクロアレイ / 滑膜 / 炎症 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
本研究においては、膝関節の力学的負荷を軽減させる手術である高位脛骨骨切り術(HTO)前後の組織を解析することにより、力学的負荷による変形性関節症の進行とその抑制に最も寄与する生体内の因子(群)について解析することを目的とする。これまでに研究参加に同意を得た34例に対し、HTO施行時および1年後のプレート抜去手術時に滑膜組織、血液、関節液を採取することができた。初期の3検体のHTO前、プレート抜去時のサンプルを用いてマイクロアレイ解析を行い、HTO後に有意に減少した遺伝子は炎症に関連したGene Ontology termやToll-like receptor signaling pathway、Rheumatoid arthritis、TNF signaling pathwayなどの炎症関連のpathwayが検出された。Real-time PCRでの遺伝子発現ではHTO後に炎症性サイトカインの低下、 M2マクロファージ関連遺伝子の増加を認めた。滑膜組織染色においてHTO後に滑膜炎症スコアは有意に改善し、 免疫蛍光染色ではM1マクロファージが減少し、M2マクロファージが増加した。関節液内の性状を術前後に比較すると、HTOにより減少した炎症性サイトカインはIL-1βのみであったが、関節液中の軟骨微小フラグメントが有意に減少した。メカニズムを解明するために、末梢血単核細胞から誘導したヒトプライマリーマクロファージを軟骨微小フラグメントで刺激すると、炎症性サイトカインの上昇が見られ、マクロファージのM1極性化が観察された。このことから、HTOによりアライメントが適正化され、軟骨微小フラグメントが減少し、滑膜マクロファージ内での炎症の抑制やマクロファージ極性の変化が生じていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高位脛骨骨切り術(HTO)からのサンプル採取が順調に進み、これまでに34例の検体を得ることができた。初期のサンプルからマイクロアレイ解析も行うことができ、マクロファージの局在の変化が起きているという重要な視点もわかってきた。全ての検体を用いたReal time PCRも行い、アライメント変化に伴う遺伝子発現の変化も示すことができた。滑膜組織の凍結切片の作成も順調に進み、関節液も全てのHTO手術時、プレート抜去時の患者から採取できた。滑膜組織のマクロファージ関連マーカーの免疫染色、関節液のELISAも行った。メカニズムとしての、微小軟骨フラグメントを用いて、滑膜の主要な細胞であるマクロファージと滑膜線維芽細胞を刺激する基礎実験も施行できた。上記から概ね順調に推移していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
滑膜を構成する主な細胞であるマクロファージと滑膜線維芽細胞がHTOでの関節環境により受ける影響について検討を行う。人工膝関節置換術で採取した軟骨より軟骨微小フラグメントを作成する。末梢血単核細胞から誘導したマクロファージ、手術時に採取した滑膜から培養した滑膜繊維芽細胞を軟骨微小フラグメントで刺激し、real-time PCR、ELISAで遺伝子発現、タンパク発現についてさらに検討を行う。滑膜を構成する器官内の細胞レベルで、軟骨微小フラグメント刺激の影響を調べるべく、人工膝関節置換術で採取した滑膜を無血清培地で培養後に、軟骨微小フラグメント刺激を行う。刺激後に滑膜内の細胞を分離採取し、シングルセルRNAseq解析を行う。次世代シーケンシングを行い、滑膜組織内での炎症の局在や、免疫応答などについてどの細胞が反応の主座であるのかについて検討する。マクロファージの極性の変化や、Tissue residentマクロファージの挙動などについて検討するとともに、滑膜線維芽細胞とマクロファージのクロストークについての検討を行う。 HTO前、HTO後のアライメントと、炎症性サイトカイン、蛋白分解酵素、マクロファージマーカーの遺伝子発現やタンパク濃度との関連を調査する。これにより、HTO手術の適応や、HTO手術の目指すべきアライメントなどについての、生物学的知見を得ることを目指す。 昨年までの検討で得られた遺伝子プロファイリングの知見により、得られた候補遺伝子については、力学的負荷の増大により変形性関節症を発生させる動物モデルを用いて、候補遺伝子発現変化による変形性関節症の進行抑制効果を検討する。
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