研究課題/領域番号 |
21H03055
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
山本 朗仁 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 教授 (50244083)
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研究分担者 |
高橋 伸典 愛知医科大学, 医学部, 教授 (20570196)
加納 史也 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 助教 (40801626)
橋本 登 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 助教 (90712365)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Siglec9 / 関節リウマチ / M2マクロファージ / 軟骨細胞 / 破骨細胞 |
研究実績の概要 |
関節破壊後期の関節リウマチ(RA)マウス(抗コラーゲンII抗体カクテルとLPSによって誘発したRA関節炎)にリコンビナントsSiglec9(S9)を静脈内投与すると、破壊した関節軟骨や骨が再生することを見出した。本研究では関節軟骨および骨の治癒・再生過程における、S9の標的細胞や作用機序の解明を目指す。今年度の研究成果概要は以下の4点;①S9投与群の関節滑膜にCD206+Arginase+陽性抗炎症性M2マクロファージの集積を確認した。マンノース被覆型クロドロソーム処理にて、M2細胞を特異的に枯渇するとS9の治療効果は消失した、②骨髄マクロファージをS9とケモカインMCP-1(M/S9)で刺激しM2マクロファージを誘導した。IL-4で誘導したM2マクロファージと比べM/S9で誘導したM2細胞は血管再生に関わるmRNAを多く発現していた。③ 新生児マウスの関節から軟骨初代培養細胞を樹立する細胞培養システムの立ち上げに成功した。炎症性サイトカインIL-1bで処理すると、iNosなどの炎症マーカーの発現が亢進し、軟骨基質の発現が低下することを確認した。炎症軟骨細胞をM2細胞の培養上清(M2-CM)で処理すると炎症形質が抑制され、軟骨基質の産生が更新した。④骨髄マクロファージをRANKL刺激で破骨細胞を誘導した。M2-CMは破骨細胞分化を抑制した。これらの研究成果からsSiglec9は関節滑膜に抗炎症性M2マクロファージを誘導することでRA損傷関節の再生を促すことが明らかとなった。S9投与によるRA治療メカニズムの解析は大きな転換点を迎えたといえる。解析初期の仮説である、S9が直接的に破骨細胞分化や滑膜線維芽細胞の活性化を担う可能性は低くなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はS9が破骨細胞や炎症性滑膜線維芽細胞の活性を直接抑制することで、関節破壊後期のRAマウスの損傷関節を再生するという仮説の元に検証を進めてきた。しかしながら、これまでの研究でS9がMCP-1と相乗的に作用しM2マクロファージを誘導することが明らかとなっていた。今回、マンノース被覆型クロドロソーム処理にて、M2細胞を特異的に枯渇するとS9の治療効果は消失したことから、M/S9がM2マクロファージを誘導することで治療効果を発揮することが示唆された。さらに、M/S9で誘導したM2がIL-4で誘導したM2と質的に異なること。M/S9投与によって滑膜に誘導したM2の分泌因子(M2-CM)が、炎症軟骨細胞の性状をカタボリックからアナボリックに変換し、RANKLによる破骨細胞分化も効率的に抑制することが明らかとなった。S9投与によるRA治療メカニズムの解析は大きな転換点を迎えた。今後、炎症性滑膜線維芽細胞に対するM2-CMの効果、M2-CMの多彩な抗RA効果を担う効果因子の同定を目指す。さらに、II型コラーゲンをアジュバンドと共に投与し、T細胞免疫が主役であるマウスRAモデル(CIAウス)を製作し、関節破壊後期におけるS9の治療効果を検証する。一方、国内では急速な高齢化に伴い、骨粗鬆症(OP)による骨折と健康寿命低下が社会的問題となっている。重要なことに、RA患者におけるOPの有病率は約2倍であり、骨折リスクも非RA患者に比べて有意に高い。即ち高齢化社会においてはRAやOPなどの骨軟骨疾患が連動し患者QOLが著しく低下している。この観点からM/S9を卵巣摘出によるOPモデルに投与することで治療効果を検証する。以上によりおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
【研究内容】① II型コラーゲンをアジュバンドと共に投与し、マウスRAモデル(CIAマウス)を製作する。卵巣摘出によってマウスOPモデル(OVXマウス)を製作する。CIA及びOVXマウスにS9を投与し治療効果を検証する。② M2-CMをLC/MSを用いて網羅的プロテオーム解析を実施し、骨軟骨疾患に治療効果を発揮する有効成分を同定する。 【研究計画】①マウス骨髄細胞を採取し、サイトカイン刺激にてM2マクロファージを誘導する。無血清培地に交換後24時間で培地を回収しM2-CMとする。M2-CMを蛋白分解処理したのちにLC/MSを用いて網羅的プロテオーム解析を実施する。これまでの論文発表等によってM2-CMの有効成分を解析する。② 7~8週例のDBA/1マウスにII型コラーゲンとアジュバンドを混合しミセル状にしたのち皮下注射しCIAモデルを製作する。卵巣摘出によってOVXマウスを製作する。CIAマウスでは免疫開始後4週、OVXマウスでは卵巣摘出4週後からS9を静脈内投与する。③CIAマウスにおける治療効果を関節腫脹スコア、自己抗体価、マイクロCTによる骨計測、病理組織解析にて評価する。OVXマウスに対する治療効果をマイクロCTによる骨計測、病理組織解析にて評価する。
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