研究課題/領域番号 |
21H03057
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
宮本 健史 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (70383768)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 骨粗鬆症 |
研究実績の概要 |
近年の高齢社会の到来を受けて骨粗鬆症の患者数は、年々増加しており、大腿骨近位部骨折などの骨脆弱性骨折の発生数も増加の一途をたどっている。骨粗鬆症は骨密度の低下などにより、骨の脆弱化が亢進した結果、骨折のリスクが高まった状態と定義される。骨密度低下のリスクとして、閉経などの性ホルモンの低下が知られており、そのメカニズムも申請者らによって徐々に解明されてきていたが、加齢による骨密度低下のメカニズムは明らかではなかった。申請者は、膜貫 通型分子であるectonucleotide pyrophosphatase/phosphodiesterase 1 (Enpp1) がリン代謝の恒常性制御を介して、骨のカルシウム制御並びに全身的な異所性石灰化制御をになっていることを明らかにしてきた。Enpp1遺伝子の機能喪失型の自然変異マウスであるtip toe walkマウス(ttwマウス)では、リン代謝制御の恒常性破綻に基づく異所性石灰化を引き起こすことを示した。また、Enpp1がどの臓器で機能しているかを明らかにするため、Enpp1 floxマウスを新規に樹立することに成功した。現在は、様々な組織・臓器特異的なCreマウスと交配することで、Enpp1がどの臓器を起点に全身的なリン代謝の恒常性を制御するのかを明らかにすべく解析を進めているところである。さらに、どの組織・臓器でEnpp1が発現するかをリアルタイムでモニターするためにEnpp1遺伝子座にluciferase-EGFP遺伝子をCRISPR/Cas9 systemで組み込んだノックインマウスであるEnpp1/luciferase-EGFP KIマウスの新規樹立にも成功した。Enpp1/luciferase-EGFP KIマウスでは実際にEnpp1の発現をリアルタイムで、マウスが生きた状態で評価が可能であることを確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
加齢性の進行性疾患である骨粗鬆症において、なぜ加齢により骨密度が低下するのか、ということについては明らかではなかった。申請者はEnpp1の機能不全が、リン代謝の恒常性破綻を介して骨密度低下の原因となり得ることを明らかにしてきた。本研究では、このことをさらに深く解析するために、Enpp1のfloxマウスを新たに樹立し、まずはEnpp1 floxマウスが樹立できているかを検証すべく、全身的にCreを発現するCAG CreマウスとEnpp1 floxマウスを交配してCAG Cre/Enpp1-flox/floxマウスを作成したところ、Enpp1欠損マウスと同様の表現型が確認できたことから、Enpp1 floxマウスが予定通り樹立できていることを確認することができた。そこで現在は、さまざまな組織特異的CreマウスとEnpp1 floxマウスとの交配が進んでおり、その解析も進行中である。また、Enpp1の発現を生体レベルで生きた状態でリアルタイムに確認ができるEnpp1/luciferase-EGFP KIマウスの樹立にも成功し、実際に生体でluciferaseの発光によりEnpp1の発現をモニターできることも確認できた。このEnpp1/luciferase-EGFP KIマウスの解析から、新たなEnpp1の発現組織を同定し、その組織特異的Creマウスとの交配も進行中である。一部、興味深い表現型が観察されている。以上のことから、研究が概ね順調に進行している、と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在進めているEnpp1 floxマウスを用いたさまざまな組織特異的Creマウスとの交配により作出された組織特異的Enpp1欠損マウスの解析を引き続き継続する。すでに、ある組織特異的Enpp1欠損マウスでは興味深い表現型が認められており、さらに解析を進める予定である。今後は、Enpp1欠損マウスに認める後縦靭帯骨化の有無や、大動脈や腎臓、アキレス腱等の異所性石灰化の有無、血中リン濃度の低下や骨密度低下の有無など、さまざまな表現型を解析し、Enpp1による骨密度維持への役割を解明していく予定である。さらにこれらの知見については、学会発表や英文誌への論文発表等で公表していく予定である。
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