本研究の目的は、ヒト胎盤幹細胞(TS細胞)を活用し、妊娠20週以降の高血圧と臓器障害を特徴とする妊娠高血圧腎症の発症機構に迫ることである。昨年度までに、転写因子の一過性発現と、細胞増殖抑制因子のノックダウンを組み合わせることで、妊娠中期以降の胎盤から効率良くTS細胞を樹立する手法を確立した。本年度は、正常TS細胞14例をコントロールとして、早発型妊娠高血圧腎症20例より樹立した疾患特異的TS細胞の表現型解析を行った。その結果、疾患特異的TS細胞において、血管新生調節因子の分泌異常や、絨毛外栄養膜細胞の浸潤異常が観察された。さらに、典型的な表現型を示した疾患特異的TS細胞を3ライン選び、RNA-seq解析、ヒストン修飾のCUT&TAG解析、DNAメチル化解析を行った。正常TS細胞のエピゲノム状態との比較を行った結果、疾患特異的TS細胞のヒストン修飾やDNAメチル化状態はほぼ正常であることが明らかとなった。また、マイクロアレイを用いたSNP解析も行ったが、疾患特異的なSNPを同定することはできなかった。上記の研究に加え、妊娠高血圧腎症への関与が指摘されている2つの転写因子(GCM1とDLX3)をノックアウトしたヒトTS細胞を作製し、これらの転写因子が絨毛外栄養膜細胞や合胞体栄養膜細胞への分化に必須であることを明らかにした。ChIP-seq解析やHiChIP解析を組み合わせることでGCM1とDLX3のターゲット予測を行い、成果を論文化した(PNAS 2023)。
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