研究課題/領域番号 |
21H03080
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田中 守 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (20207145)
|
研究分担者 |
落合 大吾 北里大学, 医学部, 教授 (80348713)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ヒト羊水幹細胞 / 細胞外小胞 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
ヒト羊水幹細胞には高い抗炎症作用があることが知られている。本研究では、炎症誘発性早産モデル動物を作成し、その治療効果と治療機序の一端を明らかにした。まず、モデル動物は、大腸菌由来毒素リポポリサッカライド(LPS)を妊娠動物に投与し、絨毛膜羊膜炎を模倣するような動物モデルを作成した。ヒト羊水幹細胞の投与は、早産率の改善、炎症反応の低下といった治療効果を認め、その機序としてヒト羊水幹細胞によるマクロファージの極性変化が示唆された。 ヒト羊水幹細胞のHeterogeneityな集団内における、より治療効果の高い細胞集団の選択について、シングルセルRNAシーケンシングを行い、各集団に特徴的に発現している遺伝子について精査した。その結果、治療効果が高いと考えられた細胞集団で細胞外小胞とその放出に関連する遺伝子が有意に高く発現していた。 当初は、ヒト羊水幹細胞の集団から治療効果の高い細胞集団を選択する計画であった。候補となる表面抗原の選定は完了していたが、実際にフローサイトメトリーで単離を試みると培養可能な細胞数を再現性良く得ることができなかった。複数のマーカーや多重染色、シングルセルピッキングによる形態学的な分離も試みたが、目的の細胞集団を安定的に単離する方法を見出すことができなかった。 並行して、ヒト羊水幹細胞から細胞外小胞を単離し、炎症型マクロファージと共培養したところ、極性変化を促進する効果があることが判明した。治療に寄与していると考えられる細胞集団の単離ではなく、治療に寄与してる細胞外小胞の分離に方針を変更し、研究を継続した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
引き続き、新型コロナウイルス感染症の影響で妊婦自体が大幅に減少し、その影響で羊水検査を希望する妊婦が減少した。また、切迫早産に至る妊婦や早産期前期破水をきたす妊婦も減少したため、細胞の樹立が遅れている。 一方、早産期前期破水の妊婦より流出した羊水検体より単離したヒト羊水幹細胞の安定的な培養および無菌試験をおこない、良好な結果を得た。当初計画していた治療に寄与してる細胞集団の単離はできなかったが、細胞外小胞が治療の根幹を担っている可能性を見出し、その分離に成功した。in vitroで当該の細胞外小胞がマクロファージの極性変化を促進していることを確認した。
|
今後の研究の推進方策 |
ヒト羊水幹細胞由来の細胞外小胞の性質を明らかにするため、新たな実験系を構築する。細胞外小胞の直接観察、蛍光顕微鏡下の観察にくわえ、マクロファージと共培養した際の挙動について解析し、in vitroで一定の効果が見込まれた段階で、in vivoでの検討に移行する。
|