研究課題
卵巣がんの一組織型である明細胞がんは、本邦における高い頻度、早期発見の困難さ、高い治療抵抗性を示し予後不良である事より、その抵抗性解明は医療上の喫緊の課題である。腫瘍中の抗がん剤抵抗性細胞群は、周りのCancer-associated fibroblast(CAF)やマクロファージ等の非がん細胞をニッチ細胞として共生し、抗がん剤耐性を獲得していると予想されるが、これらの細胞間の相互依存的なネットワークの形成が抗がん剤抵抗性の本態であると考えられる。本研究においては、従来の1細胞解析法を進展、統合する事により、明細胞がん抵抗性の本態解明を目指した研究を行なった。研究方法としては、抗がん剤抵抗性または感受性を示した臨床がん凍結検体より細胞核を抽出し、1細胞核解析を行う事によりがん細胞の層別化を行なった。次に、抵抗性症例と感受性症例の比較により、抵抗性症例においてのみ増加するがん細胞群を治療抵抗性細胞群、及び抵抗性細胞群に特異的に発現する遺伝子群を抵抗性シグネチャーとして同定した。さらに、同一凍結検体を用いて空間的遺伝子発現解析を行い、抵抗性シグネチャーを指標にして抵抗性細胞の組織内局在を明らかにした。同定された抵抗性細胞の組織内分布については、連続切片を用いたシグネチャー遺伝子の免疫染色により確認すした。また間質に存在する非がん細胞群(CAF、マクロファージ、内皮細胞など)についても同様の解析を行い、がん組織中での細胞分布を検証した。今後これらの研究を進展させ、卵巣明細胞がんの治療抵抗性領域を標的とした革新的治療法の構築を目指す。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の研究目標としては、1)抗がん剤抵抗性または感受性を示した臨床がん凍結検体より細胞核を抽出し、1細胞核解析を行う事によりがん細胞の層別化を行う。2)抵抗性症例と感受性症例の比較により、抵抗性症例においてのみ増加するがん細胞群を治療抵抗性細胞群として同定するとともに、抵抗性細胞群に特異的に発現する遺伝子群を抵抗性シグネチャーとして同定する。3)同一凍結検体を用いて空間的遺伝子発現解析を行うが、抵抗性シグネチャーを指標にして抵抗性細胞の組織内局在を明らかにする。4)抵抗性細胞周囲のニッチ細胞の存在を、免疫染色で同定する。5)抵抗性細胞とニッチ細胞の相互依存性を、リガンドーリセプター解析より明らかにし、治療標的となりうるシグナル経路を浮き彫りにする、であったが、1-4に関しては、ほぼ目標を達成しており、今年度は5及び同定される治療標的から治療法構築を目指す。従って、昨年度中に本研究課題の目標のかなりの部分は達成しており、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
今年度以降の本研究課題の推進方策としては、昨年度新たに得られた知見に基づき、抵抗性細胞とニッチ細胞の相互依存性を、リガンドーリセプター解析より明らかにし、治療標的となりうるシグナル経路を浮き彫りにすることを目指す。さらに同定されるシグナル経路を標的とした革新的治療法の開発に取り組む予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件)
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