研究課題/領域番号 |
21H03102
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岡部 圭介 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (50445350)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ケロイド / メカニカルストレス |
研究実績の概要 |
皮膚創部へ反復する張力などの力学的刺激が加わると、ケロイドや肥厚性瘢痕が生じやすく、またそれらは増悪因子のひとつとしても知られている。テープやシリコンジェルシート、コルセットなどによる創部安静が予防治療として以前より行われてきたが、近年、外界からの力学的刺激が細胞内シグナルへ変換・伝達される仕組みが徐々に解明され、それがケロイドの治療にも応用できる可能性が論じられている。本研究では、創部へ加わるメカニカルストレスによってどのような遺伝子発現の変化が生じるのかを解明するために、細胞培養モデル、力学負荷マウスモデル、患者由来ケロイド組織の遺伝子発現を比較検討した。 ケロイドの臨床像を忠実に再現する動物モデルは存在しないため、ケロイドにおけるメカニカルストレスの影響を評価するために、細胞培養モデル、マウスモデルを新たに考案した。培養モデルでは、生体組織に近い環境を再現するべく、人工真皮にケロイド由来線維芽細胞を播種し、3次元組織を構築した上で反復張力刺激を加えて培養した。1週間の培養後に細胞骨格の免疫染色でストレスファイバーの増強を認め、またPCRでは炎症性サイトカインをはじめとする著明な遺伝子発現の変化があることを確認した。マウスモデルでは、背部創傷作成後、連日鎮静麻酔科に用手的な反復刺激を1週間にわたり加えた。1週間後の瘢痕部位は力学刺激負荷群において発赤と膨隆を認め、組織学的解析で瘢痕容積の増大、血管やマクロファージの増加を認めた。患者由来ケロイド組織を用いたマイクロアレイにおいて、周囲健常組織と比較して有意に高発現していた遺伝子のうち複数のものが、これらのモデルにおいても有意に増加していることが分かった。来年度以降は、これらのシグナルの特性について更に個々に実験を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ケロイドの臨床像をなるべく反映させるような条件のもと細胞培養モデル、マウスモデルを考案し、それらについて有意に組織像や遺伝子発現が変化することが確かめられた。治療標的候補のシグナルを来年度以降しぼりこむ基礎となるデータを得ることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
力学負荷マウスモデルについては、新規のモデルではあるが、定量性がやや乏しい欠点があることを自認している。他の研究者も同様に行い同様の結果が得られるモデルへと洗練させるべく、定量性を持つモデルへ改変する予定である。その上で、細胞培養モデルと同様に網羅的遺伝子発現解析を行い、患者由来ケロイド組織の結果とも合わせて、メカニカルストレスによって変化するシグナル伝達を特定していく。さらには、それらのシグナル伝達を薬剤等で変化させた場合に細胞の挙動がどのように変化するかについて実験を進める予定である。
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