ケロイドや肥厚性瘢痕は、心筋梗塞後の心臓線維化、肝硬変に伴う肝線維化、肺線維症などと同様に、線維化によって臓器の機能障害をきたす皮膚の「線維増殖性疾患」のひとつと考えられている。皮膚損傷後のきずあとは、ひきつれによる機能障害、持続的な痛みや痒みなどの自覚症状、目立つきずあとによる社会生活上の問題等により、患者の生活の質を著しく低下させるものである。ケロイドや肥厚性瘢痕の有病率は非常に高いものの、現在有効な治療の選択肢は限られており、また重症者に対しては対症療法のみしか選択し得ない現状がある。本研究では、ケロイドに対する新規治療法の開発を目指すべく、その特徴であるメカニカルストレス応答に注目して研究を進めている。ケロイドの病態を再現できる動物モデルは存在しないことから、これまでに、メカニカルストレスを負荷した3次元培養モデル、用手的な反復するメカニカルストレスを負荷するマウスモデルを開発し、これらと実際のケロイド患者組織から得られる遺伝子情報を照合しつつ研究を進めてきた。細胞培養モデルは、3次元でメカニカルストレスが負荷できるよう、ストレッチ機器の改変を行い、市販の人工真皮に細胞を播種して伸展可能としたところ、有意な遺伝子発現の変化、細胞骨格の変化が認められることが分かった。マイクロアレイによる網羅的遺伝子解析を数例に対して行い、これまでケロイドにおいて発現が増加する既知の遺伝子のほか、ケロイドにおいては役割が知られていない遺伝子も複数リストアップすることができた。一方、開発したマウスモデルの標準化や定量化にはまだ改善の余地があるため、改善した上で網羅期的解析を同様に進める予定である。
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