研究課題/領域番号 |
21H03120
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
柴 秀樹 広島大学, 医系科学研究科(歯), 教授 (60260668)
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研究分担者 |
武田 克浩 広島大学, 病院(歯), 講師 (10452591)
松尾 美樹 広島大学, 医系科学研究科(歯), 准教授 (20527048)
應原 一久 広島大学, 医系科学研究科(歯), 助教 (80550425)
丸山 博文 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (90304443)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Cnm陽性う蝕原因細菌 / 脳出血 / PRIP / 健康寿命の延伸 |
研究実績の概要 |
全死因の上位3番目である脳血管疾患のうち脳出血の発症・増悪にう蝕が強く関与するエビデンスを構築し、う蝕予防を含めた歯科治療が健康寿命の延伸、QOLの向上に寄与することを示すために、本研究では、う蝕原因細菌であるStreptococcus mutans (Sm)のコラーゲン結合タンパク質Cnmが脳出血の病態悪化に関わるメカニズムを基礎研究(in vitroと動物実験)と疫学研究の両面から解明する。特に、宿主細胞の異物(細菌)排除機構であるオートファジーを担うPRIPのCnm陽性Smによる脳出血への関与を明らかにする。本年度、in vitroの研究では、歯髄細胞や血管内皮細胞を、in vivo研究では、すでに確立しているCnm陽性Sm歯髄感染ラット脳出血モデルを主に用いて実験を行った。in vitroの実験系では、Cnm陽性Smは血管内皮細胞および歯髄組織で強く発現している細胞外基質type IV collagenと強く結合することが認められた。ラットモデルマウスを用いた実験では、歯髄感染したCnm陽性SmはCnm欠失Smと比較して、有意に脳出血を引き起こすこと、および脳組織切片において微小脳出血部位からSmを検出した。疫学研究については、広島大学疫学研究倫理審査委員会に”Cnm陽性う蝕原因細菌による脳卒中発症・増悪機序の解明”という研究課題名で申請し、承認を得た(許可番号:E-2581 )。現在、本大学病院脳神経内科受診中の脳出血の既往のある患者24名および患者の配偶者4名、合計28名を研究対象者として登録し、10名からプラークを採取した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、基礎研究と疫学研究を実施した。基礎研究としては、う蝕原因細菌であるStreptococcus mutans (Sm)のコラーゲン結合タンパク質Cnmが脳出血の病態悪化に関わるメカニズムを明らかにするために、in vitro研究としては、歯髄細胞や血管内皮細胞を用いて、in vivo研究としては、すでに確立しているCnm陽性Sm歯髄感染ラット脳出血モデルを主に用いて実験を行った。in vitroの実験では、Cnm陽性Smが血管内皮細胞と歯髄組織で強く発現している細胞外基質の一つであるtype IV collagenと強く結合することを示した。ラットモデルマウスを用いた実験では、歯髄感染したCnm陽性SmがCnm欠失Smと比較して、有意に脳出血を引き起こした。神経学的スコアの評価では、Cnm欠失Smと比較してCnm陽性Smの方が高値を示した。脳組織切片を用いた評価では、Cnm陽性SmがCnm欠失Smと比較して、多くの脳出血部位が観察され、Cnm陽性Sm感染群では、微小出血を引き起こした部位から蛍光染色によってSmを検出することができた。疫学研究については、初年度は年間約30名の患者を研究対象者として登録する予定にしていた。新型コロナ感染症の拡大のため、配偶者を除く3親等以内の親族である患者家族からのプラークを採取することはできなかったが、24名の登録をすることができた。現在、10名のプラークを解析し、2名からCnm陽性Smを検出し、凍結保存した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も引き続きin vitro実験、in vivo実験、疫学研究を進めていく予定である。in vitro実験では、宿主細胞の異物(細菌)排除機構であるオートファジーを担うPRIPのCnm陽性Smによる脳出血への関与を明らかにする。具体的には、Cnm陽性および陰性Smを歯髄細胞や血管内皮細に感染させ、PRIPのmRNA発現とタンパクレベルでの産生量を比較する。また、Cnm陽性Smの細胞への付着、侵入能とCnm産生量との間に正の相関があると推察し、SmのCnm mRNA発現量を調べるとともに、リコンビナントCnmを用いて作製したCnm特異的抗体を用いて明らかにする予定である。さらに蛍光染色法によって、細胞内へ感染したCnm陽性Sm、オートファジー特異的タンパク質およびPRIPの局在を観察する。in vivo実験では、作製したCnm抗体を用いて、脳出血モデルの脳組織中のCnmとtype IV collagenとの結合を観察する。また、細胞内へ侵入したSmとPRIPの関係についても組織学的に調べる。疫学研究については、引き続き、研究対象者の登録を行い、SmとCnm遺伝子の有無をPCR法で調べるとともに、Cnm遺伝子陽性のSmについては、in vitroの実験に供するため凍結保存する。SmのCnm遺伝子発現に加えて、Smの7つのバクテリオシン遺伝子発現についてもPCRで調べこととし、cnm発現や医学的所見との関わりを検討していく。
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