研究課題
う蝕の主要な原因細菌である Streptococcus mutansは、約10~20%の頻度で菌体表層にコラーゲン結合タンパク(collagen-binding protein; CBP)を発現している。CBP陽性S. mutansは様々な全身疾患に関与することが示されてきているが、その詳細については不明な点が多い。本研究では、CBP陽性S. mutansの菌体表層構造および全遺伝子の発現について解析した。また、臨床検体を用いてCBP陽性S. mutansと脳血管疾患およびIgA腎症に及ぼす影響について検討を行った。CBP陽性S. mutansの菌体表層構造を電子顕微鏡で観察したところ、CBPはこの菌株に特異的な突出した表層構造と連続する形で細胞表面に局在していた。また、CBP陽性S. mutansの遺伝子発現変化についてRNAシークエンスを用いて分析した結果、CBPが存在することによりABCトランスポーターや細胞表面タンパク質に関連する多くの遺伝子の発現が低下していることが明らかになった。脳出血患者のうちデンタルプラークからS. mutansが分離された322名を対象として、PCR法によりCBPをコードする遺伝子を検出した。その結果、CBP陽性S. mutansを保有する72名の患者では、脳の深部および小葉において微小出血の数が多いことが明らかになった。また、IgA腎症患者では糸球体においてガラクトースを欠損したIgA1(Gd-IgA1)が増加することから、IgA腎症患者におけるCBP陽性S. mutansの存在と糸球体のGd-IgA1の関連性について分析を行なった。IgA腎症またはIgA血管炎患者74名を対象とした分析により、糸球体組織におけるGd-IgA1の免疫蛍光強度と唾液中のCBP陽性S. mutansの陽性率との間に相関を認めることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本研究結果から、S. mutansのCBPは菌体表層で発現して細胞表面の構造の変化を生じ、膜透過性に関連するいくつかの生物学的性質と関連している可能性が示唆された。これらの知見はCBPを標的とした簡易検出法や治療法の開発に寄与するものと考えられる。また、臨床検体を扱った研究結果から、口腔内に存在するCBP陽性S. mutansは脳の特定の領域において微小出血の出現率を増加させるとともに、IgA腎症患者では糸球体のGd-IgA1の病態に関連していることが明らかになった。本研究結果から、脳出血やIgA腎症などの全身疾患の予防には、口腔内のCBP陽性S. mutansを減らすことが有効である可能性が示唆された。これらのことから、研究はおおむね順調に進行していると考えられる。
CBP陽性S. mutansが脳血管疾患や腎疾患の悪化に関わることが明らかとなったため、これらの全身疾患に着目したより詳細な研究を進める予定である。また、他の口腔細菌種の存在がCBP陽性S. mutansの病原性に及ぼす影響についても分析したいと考えている。さらに、口腔内のCBP陽性S. mutansを減らすことが全身疾患の予防に有効である可能性が示されたため、CBP陽性S. mutansの簡易検出法の開発に着手するとともに、本菌の抑制に有効な物質を特定したいと考えている。
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