研究課題/領域番号 |
21H03185
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
高田 礼子 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (30321897)
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研究分担者 |
山内 博 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (90081661)
人見 敏明 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 准教授 (90405275)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 無機ヒ素 / 血液脳関門機能障害 / ヒ素のメチル化 / Nrf2活性化 / 認知機能障害 |
研究実績の概要 |
飲料水の無機ヒ素(iAs)汚染が原因の慢性ヒ素中毒患者では、生活習慣病の発生や増悪が問題となっており、最近の疫学調査から小児と成人において認知発達障害や認知機能障害の発生も明らかになり始めた。一方、非iAs汚染地域である欧米の一般住民において、食事から摂取するiAsが認知発達障害や認知機能障害の原因になり得るとする研究報告が増加しており、科学的検証が求められている。 本研究では、動物実験に替わる血液脳関門(Blood Brain Barrier: BBB)の構造と機能を模範したrat in vitro-BBB modelを用いて、これまで検証が難しかったBBB内での3価のiAs(iAs(III))とその第一中間代謝物であるmonomethylarsonous acid (MMA(III))について透過性や代謝を検討した。さらに、iAs(III)やMMA(III)暴露によるBBBのtight junction(TJ)機能への影響、そして、その原因となる酸化ストレス応答との関連性も検討し、認知発達障害や認知機能障害の予防医療に寄与できる研究成果の獲得を目的とした。 rat in vitro-BBB modelを用い、iAs(III)とMMA(III)のBBBにおける透過性と代謝を検討した。これらのヒ素はBBBを瞬時に透過するのではなく24時間後の透過率は約50%であった。BBB内でiAs(III)とMMA(III)は代謝され、dimethylarsenic acid (DMA)が最終代謝物であることが明らかになった。さらに、iAs(III)やMMA(III)の暴露後、Nuclear factor-erythroid 2-related factor 2 (Nrf2)とheme-oxygenase-1(HO-1)の上昇を認めた。 これらの結果から本研究計画の意義と信頼性が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の研究計画では、実験-1と2を予定し遂行した。 実験-1では、ヒ素のBBBにおける透過性と代謝についての解明を行った。これまでヒトと実験動物においてBBBでのヒ素の透過率を数量化した結果は報告されていなかった。この未知の問題に対して、ヒ素一回添加後24時間におけるBBBでの透過率は、iAs(III)が43%、MMA(III)が53%で、BBBはヒ素を脳実質へ大量に移行させないよう制御されている実態を数値化できた。本研究から、BBB内におけるヒ素の代謝が初めて明らかになった。BBB内ではiAs(III)とMMA(III)は代謝されDMAが最終代謝物であったが、MMA(III)はiAs(III)より代謝されやすいヒ素であることが明らかになった。これらの結果から、BBBには独立したヒ素の代謝機序が存在する可能性が推測された。 実験-2では、ヒ素暴露によるBBB-TJ障害に関わるNrf2活性化の役割について解明を試みた。iAs(III)やMMA(III)暴露による酸化ストレスに対して、BBB-TJの機能の保持にNrf2が活性化すると予測していた。本研究から、iAs(III)やMMA(III)の濃度依存的にNrf2の活性化が確認され、HO-1との関連も期待された結果であった。 以上から、2021年度に予定していた研究成果は順調に獲得できたと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度以降の研究計画では、iAs(III)やMMA(III)暴露後のBBB-TJ傷害は、iAsよりその中間代謝物による作用が主因との仮説を持つことから、2種のヒ素の暴露後のBBB-TJ傷害について、活性酸素種(ROS)の発現、酸化ストレス制御タンパク(Nrf2, HO-1)やTJタンパク(Claudin-5, ZO-1)などの挙動について詳細な情報の収集に努める。 さらに、iAs(III)やMMA(III)暴露後のBBB-TJ傷害の増悪や抑制に関して、Nrf2の活性化とGSHの役割について詳細を検討する。 2021年度の研究において、国内外で初めての研究成果となるBBB内でのヒ素のメチル化は、BBB-TJの機能保護、そして、グリア細胞や神経細胞などでの保護機能の解明につながる可能性を予測しており、当該問題に関する基礎的な検証を試みる。 これらの研究成果の集積は、ヒ素暴露が原因する可能性がある認知発達障害や認知機能障害において、予防医療に寄与するものと考えている。
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