研究実績の概要 |
アジアや中南米諸国における慢性ヒ素中毒は未だ終息に至らず、新たな問題として小児と成人における認知機能障害が問題化し始めた。さらに、非ヒ素汚染地域においても食事からの無機ヒ素(iAs)摂取による認知機能障害が確認され、公衆衛生学において重要な研究課題である。我々は、iAs暴露からの認知機能障害は血液脳関門(Blood Brain Barrier: BBB)のタイトジャンクション(TJ)傷害、そして、脳組織内に取り込まれたiAsおよびその代謝物(monomethylarsonous acid, MMA (III))によるグリア細胞での炎症の発生、そして、炎症性サイトカインによる神経細胞障害から認知機能障害に繋がるメカニズムを想定している。 本研究では、動物実験に替わるrat in vitro-BBB modelを用いて、iAs(III)とMMA (III)によるBBBのTJ傷害について、TJタンパク(Claudin-5, ZO-1)を指標にウェスタンブロット法および蛍光免疫染色法にて検証した。Claudin-5と ZO-1による評価では、MMA(III)による TJ傷害はiAs(III)に比較して強く、ヒ素暴露による認知機能障害の解明研究には、iAsの代謝物をより詳細に検証する必要性を明らかにした。一方、iAs(III)やMMA(III)によるTJ傷害は、酸化ストレス制御タンパク(Nrf2, HO-1)の強化により抑制される可能性も明らかにした。本研究から、BBBおよびグリア細胞におけるヒ素による酸化ストレスの消去は、認知機能障害の予防対策として重要であると考える。
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