研究課題/領域番号 |
21H03215
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
湯川 修弘 宮崎大学, 医学部, 教授 (30240154)
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研究分担者 |
柿崎 英二 宮崎大学, 医学部, 准教授 (70284833)
新川 慶明 宮崎大学, 医学部, 助教 (40625836)
園田 愛 宮崎大学, 医学部, 助手 (10762122)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 法医学 / 死因究明 / 溺死の診断 / 水棲細菌 / LAMP法 / 珪藻 / 壊機法 / プランクトン検査 |
研究実績の概要 |
死後の溺死診断において,珪藻類などの水中の微生物を肺や血液,腎臓や肝臓などから検出できれば,生前に水を吸引した可能性が高くなる。そのため珪藻を指標としたプランクトン(珪藻)検査は溺水の吸引を示唆する重要な検査として位置付けられている。しかし,その検査方法は未だ充分に確立できておらず,改善すべき課題が残されている。そこで本研究では,珪藻検査の検出感度や特異性を最適化するために検査方法のさらなる改善に取り組んだ。組織の溶解において古くから硝酸や過酸化水素と共に硫酸も使用されてきた。しかし粘性や比重が高く扱いづらい上に,硝酸を追加した際に激しく反応し飛沫のためコンタミネーションを生じやすい。本研究からは組織の完全な溶解に硫酸は必ずしも必要ないと考えられた。組織を溶解するための加熱時間については,温度にも依存するが,検鏡を容易にするために30分以上は必要であることが本研究によって示された。ただし90分は超えないようにし、それでも不十分な場合は強制的に終了すべきであると考えられた。検出感度を上げるため,組織の検体量を増やす方法もとられている。しかし多量の臓器(50-100 g)を溶解するには,強い火力で長時間の加熱が必要で,その条件では珪藻自体も溶けてしまう。また短い時間で加熱を終了すると,未消化残渣が多く鏡検に支障を来す。本研究で肝臓は10 gの組織が適切で,20 gが限度であると考えられた。また肺については,珪藻の数が顕著に多いため,1 gや2 gの検体量で充分であることが示された。強酸による組織の溶解が不十分であると,遠心分離によって珪藻が沈みにくくなることが示された。そのため小さな珪藻や比重の低い珪藻にとって(特に海水珪藻),組織の完全な溶解は重要であると考えられた。またフラスコの再利用による偽陽性検出に関して,走査型電子顕微鏡を用いた観察によって重要な知見も得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究成果から,ガラス製のフラスコを再利用するだけで多数の珪藻(最大290個)が偽陽性として検出される危険性が明確に示された(Forensic Sci Int 2022, vol 330)。また解剖時の試料採取の際にも最大17個の珪藻を偽陽性として検出し,試料採取を慎重に行わなければ,従来考えられている以上に多数の珪藻を偽陽性として検出する危険性が高くなることも示された(Forensic Sci Int 2022, vol 341)。以上の結果から,肺以外の臓器(腎臓,肝臓)や血液を対象としたプランクトン(珪藻)検査には細心の注意を要することが再確認された。さらに本年度の研究成果から,プランクトン検査を最適化するための方法について,多くの新しい知見が得られた。これにより,少なくとも我々の施設では,従来危険で多大な労力や時間を要していたプランクトン検査の実務環境が格段に改善でき,今後さらに研究を継続することで,珪藻を最も高感度かつ特異的に検出できる最適な方法を確立できると期待している。また珪藻を指標としたプランクトン検査(強酸を用いた壊機法)について,1960年代以降,偽陽性の問題が解決されずに残っているが,本研究成果を含めてこれまでの我々の溺死研究の成果を考慮することで,溺死体における偽陽性検出に関して今後改善され,重要な知見が明らかになっていくものと期待している。今後国際的な論文発表を通して,本研究で得られた新しい知見を広く世界に公表していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
珪藻を指標としたプランクトン検査については,今回の研究成果を基盤として,検査の検出感度や特異性をさらに向上させるため引き続き改善を加えていく。その際,あくまで可能な限り危険が少なく,労力の少ない珪藻検査法であることを前提に改善を加えていきたい。珪藻は多様な水環境によってその生息数が著しく異なっており,どのような水環境においても溺死の際,必ずしも諸臓器(肺,腎臓,肝臓,骨髄)や血液から珪藻を検出できるわけではない。そのため珪藻が検出できなかった場合に,溺水吸引の有無を診断するための判断材料の1つとして,珪藻以外にも別の水棲微生物である水棲細菌(Aeromonas, Vibrio, Photobacterium, Listonella)を指標としたLAMP法による簡易スクリーニング検査や,さらにその先の先端的な技術の応用としてその他の微生物を広く網羅的に検出するためのメタ16S解析検査を追加して実施する方法が効果的であると考えている。また我々のこれまでの溺死研究で示された「肺以外の臓器や血液からは,本来珪藻を殆ど検出できないのではないか」という仮説をさらにもう一段階強固にするために,分子生物学的手法を用いた珪藻の数や種類についての調査も加えて検証していきたい。
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