2023年度は、当該遺伝子による骨格筋のミトコンドリアの機能制御の分子メカニズムを中心に検討を行った。マウス骨格筋由来の培養細胞に当該遺伝子の発現を抑制するsiRNAを導入し、ミトコンドリアの呼吸機能および呼吸機能に関わる制御機構について検討を行った。当該遺伝子の発現抑制によって、ミトコンドリアの量には、顕著な影響は観察されなかった。一方で、ミトコンドリアの呼吸機能を評価すると、ピルビン酸+リンゴ酸、グルタミン酸+リンゴ酸、アシルカルニチン+リンゴ酸、コハク酸+ロテノンを基質とした際のATP産生に共役した酸素消費速度が向上することが見出された。続いて、ミトコンドリア呼吸機能が向上した生理的背景を紐解くためにTCA回路、電子伝達系の酵素活性を検討したその結果、評価した測定項目の中では、電子伝達系の呼吸鎖複合体IVの活性が向上することが示された。
当該遺伝子の発現抑制によって、ミトコンドリア生合成および酸化的エネルギー代謝のマスターレギュレータであるPGC-1alphaの遺伝子発現量が向上することが示された。この結果から、当該遺伝子の発現抑制によって、ミトコンドリアの呼吸機能が向上した分子メカニズムとしてPGC-1alphaの発現誘導が関与する可能性が示唆された。そこで本研究では、当該遺伝子の発現抑制によるミトコンドリアの呼吸機能の向上にPGC-1alphaが必要であるか否かを検討するための実験を行った。具体的には、当該遺伝子およびPGC-1alphaのダブルノックダウンを実施した。その結果、当該遺伝子の発現抑制に伴うミトコンドリアの呼吸機能の向上は、PGC-1alphaの発現を抑制しても顕著な影響が観察されなかった。したがって、少なくとも当該遺伝子の発現抑制によるミトコンドリアの呼吸機能の向上には、PGC-1aplhaは必ずしも必要ではない可能性が示唆された。
|