研究課題/領域番号 |
21H03354
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
橘 敬祐 大阪大学, 大学院薬学研究科, 講師 (30432446)
|
研究分担者 |
吉田 卓也 大阪大学, 大学院薬学研究科, 准教授 (00294116)
石本 憲司 大阪大学, 大学院薬学研究科, 特任講師(常勤) (00572984)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 核内受容体 / 認知症 / 血液脳関門 / PPAR / タイトジャンクション |
研究実績の概要 |
本邦における超高齢化社会においては、認知症の克服が健康寿命の延伸に不可欠である。近年の食生活や運動不足によるエネルギー過剰の状態は、体内に余剰の脂肪蓄積を促し、生活習慣病発症の引き金となる。認知症は、生活習慣病がその発症に関わっているものの、脂質代謝との関連については不明な点が多い。実際、脂質異常症などの生活習慣病を基礎疾患として持つ人は、認知症の発症率が高まること、コレステロール代謝を司るアポリポ蛋白Eが危険因子であること、スタチンなどの血中コレステロール低下薬が認知症発症率を低下させることなどが報告されている。しかし、脳の毛細血管では隣接する血管内皮細胞の間隙を埋める密着結合が発達し血液脳関門を形成しており、医薬品・食事成分やリポ蛋白は直接脳内に入ることはできない。 本研究では脂質センサー分子及び血液脳関門に着目し、脂質代謝制御メカニズムを解明すると共に、認知症予防効果を発揮する医薬品・機能性食品成分等を開発し、認知症の先制予防・治療の基盤を構築し、健康長寿社会の実現を目指す。 まず、脂質センサー分子である核内受容体PPARαに着目し、植物抽出エキスを用いた活性評価を行った。次に、申請者らが独自に見出した新規PPARαリガンドを活用し、立体構造情報を基に化合物の高度化を進めた。さらに、血液脳関門を標的とした薬物送達技術について、その安全性と有効性を評価した。 以上の研究を推進して得られた成果は、より強い脂質代謝制御活性を持つ医薬品や機能性食品等、並びに、血液脳関門を標的とした薬物送達技術の開発に繋がるため、認知症に対する新規治療法の基盤を構築する上で意義深いものと考える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、血液脳関門構成分子を標的とした薬物送達技術を開発すると共に、脂質センサー分子である核内受容体PPARαの活性化により代謝を制御することで、認知症に対する予防・治療戦略の基盤を構築するものである。 そのためにまず、独自に構築したPPARα活性制御分子のスクリーニング系を活用し、約500種類の植物抽出エキス等の活性を評価した。その結果、ヒメガマホエキスや甜茶エキスなどに活性が認められた。次に、申請者らが見出したピラゾロピリジン骨格を持つ新規PPARαリガンドを出発物質として用いて、より強力な活性を持つ化合物の開発を進めた。当該化合物とPPARαのリガンド結合領域との立体構造解析の結果を基に新規化合物をデザインした。合成した化合物のin vitroにおける転写活性を評価した結果、出発物質よりも活性の強い化合物が得られた。さらに、血液脳関門を構成するタイトジャンクションの主要分子であるCLDN-5を標的とした薬物送達技術として、抗CLDN-5抗体を用いた有効性及び安全性の評価を実施した。カニクイザルに抗CLDN-5抗体を投与した結果、376 Daの低分子の脳脊髄液中への移行が確認できた。一方、高用量で抗体を投与した場合、痙攣を発症すると共に血管に異常が認められた。このように、CLDN-5を標的とした脳内薬物送達技術については、安全性に課題が認められたものの有効性が確認できた。 このように本研究は、概ね順調に進捗していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
令和3年度までに、脂質センサー分子であるPPARαを活性化する植物抽出エキスを同定した。また、独自に見出した活性化化合物の高度化を実施した。今後、これら化合物とPPARαとの立体構造情報の詳細を解析することで、より高い活性を持つ化合物を開発すると共に、in vivoでの活性評価を実施する。また、CLDN-5を標的とすることで、脳内薬物送達が可能になることが示された。今後、より安全な技術を開発することで、認知症の新規予防・治療法の基盤構築に繋げる。
|