本邦における超高齢化社会においては、認知症の克服が健康寿命の延伸に不可欠である。近年の食生活や運動不足によるエネルギー過剰の状態は、体内に余剰の脂肪蓄積を促し、生活習慣病発症の引き金となる。脂質異常症などの生活習慣病を基礎疾患として持つ人は、認知症の発症率が高まること、コレステロール代謝を司るアポリポ蛋白Eが危険因子であること、血中コレステロール低下薬が認知症発症率を低下させることなどが報告されている。しかし、脳の毛細血管では隣接する血管内皮細胞の間隙を埋める密着結合が発達し血液脳関門(BBB)を形成しており、医薬品や食事成分は直接脳内に入ることはできない。認知症を治療するためには、発症の早期から予防的に介入する先制医療が重要であるが、認知症を早期に見出すバイオマーカーは確立されていない。本研究では脂質センサー分子及び血液脳関門に着目し、認知症の早期バイオマーカーの開発、並びに認知症予防効果を発揮する医薬品・機能性食品成分等を開発し、認知症の先制予防・治療の基盤を構築し、健康長寿社会の実現を目指す。 前年度までに脂質センサー分子である核内受容体PPARαの活性制御法について、独自に見出した新規リガンドの高度化に成功した。得られた高活性化合物を用いたin vivo薬効評価試験において、脂質代謝活性の上昇が認められた。また、少ないものの脳中で化合物が検出されたことから、脳へ移行する可能性が示された。次に、BBB構成成分の一種であるCLDN-5に着目し血中濃度を解析した結果、認知機能正常者に比較し、軽度認知障害やアルツハイマー病由来サンプルでCLDN-5量が増加する傾向が認められ、その傾向は年齢が若いほど顕著であった。すなわち、認知症を診断するための早期バイオマーカーになる可能性が示唆された。本研究で得られた成果は、認知症の新規予防・治療法の基盤構築に繋がる意義深いものである。
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