研究課題/領域番号 |
21H03355
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
細岡 哲也 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 准教授 (60590594)
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研究分担者 |
阪上 浩 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 教授 (60372645)
篠原 正和 神戸大学, 医学研究科, 准教授 (80437483)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 褐色脂肪組織 / 熱産生 / インスリンシグナル / PDK1 / エネルギー基質利用 |
研究実績の概要 |
褐色脂肪組織は、脂肪酸やグルコース、分岐鎖アミノ酸などのエネルギー基質を利用して熱産生を行う特異的臓器であり、肥満や代謝疾患に対する治療標的として大きな注目を集めている。インスリンは、脂肪酸やグルコース、アミノ酸をはじめとする栄養素の代謝に中心的な役割を担うが、褐色脂肪組織におけるインスリンシグナルの生理的意義は不明である。本研究は、インスリンシグナルの鍵キナーゼPDK1の褐色脂肪組織特異的ノックアウトマウスを用いて、褐色脂肪組織におけるインスリンシグナルの生理的意義を明らかにすることを目的とした。PDK1-floxマウスとUCP1-Creマウスの交配により褐色脂肪組織特異的PDK1ノックアウト(B-PDK1KO)マウスを作出した。B-PDK1KOマウスの褐色脂肪組織は、褐色脂肪細胞内の脂肪滴が減少することにより対照マウスと比べて重量の低下が認められた。B-PDK1KOマウスは対照マウスと比べ、寒冷環境下において著明な体温低下を示したことから、褐色脂肪組織におけるPDK1経路は褐色脂肪組織の熱産生に重要であることが明らかとなった。一方、電子顕微鏡による観察において、B-PDK1KOマウスの褐色脂肪細胞内のミトコンドリアの数や形態に異常は認められなかった。また、B-PDK1KOマウスと対照マウスの褐色脂肪組織において、ミトコンドリア電子伝達系遺伝子や褐色脂肪組織の熱産生・機能に関わる遺伝子の発現量に差は認められなかった。以上の結果より、褐色脂肪組織のPDK1経路を介するインスリンシグナルは、ミトコンドリアの数や形態の制御とは独立したメカニズムにより寒冷応答性熱産生に重要な役割を担うことが明らかとなった。また同時に、本経路は、寒冷環境下において褐色脂肪組織の熱産生に必要となるエネルギー基質の供給と利用を制御する可能性が想定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定されていなかった当大学動物実験施設の大規模改修工事が令和3年10月より令和4年3月まで実施されることによりマウスの飼育スペースの確保できず、研究に必要なノックアウトマウスの作出できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析により褐色脂肪組織のPDK1経路を介するインスリンシグナルが、寒冷応答性熱産生に重要な役割を担うことが明らかとなったが、次年度は、メカニズムに関する解析を行う。具体的には、褐色脂肪組織特異的PDK1ノックアウト(B-PDK1KO)マウスの褐色脂肪組織を用いたメタボローム解析とトランスクリプトーム解析を行い、量の変化する代謝物を特定するとともにその代謝物の生成や代謝に関わる酵素の発現量を調べる。 さらに、寒冷応答性熱産生の制御に関わるPDK1の下流経路のうちmTORおよびFoxO1の関与を検証するために、褐色脂肪細胞特異的PDK1/TSC1ダブル欠損マウス、および、褐色脂肪細胞特異的PDK1/FoxO1ダブル欠損マウスの作出を行う。これらのマウスを用いて褐色脂肪組織機能を調べるとともに、メタボローム解析ならびにトランスクリプトーム解析によりメカニズムの検証する。
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