研究課題
昨年度の繰越による研究費用により、ヒトα-アクチンプロモーター(HSA)によって骨格筋特異的にCreリコンビナーゼを発現した「HSA-Creマウス」を、「LPGAT1(flox/flox)マウス(fl/fl)」と交配させ、LPGAT1-cKO(cKO)マウスを作出し、摘出した骨格筋を用いて解析した結果、骨格筋において、LPGAT1が18:0-PC生成に大きく貢献していることが明らかになった。今年度は、18:0-PC以外のリン脂質分子種の変化についてLC-MSを用いて解析したところ、cKOマウスにおいて1-stearoyl-2-docosahexaenoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine (18:0-PE)、1-stearoyl-2-docosahexaenoyl-sn-glycero-3-phosphoserine (18:0-PS)の著しい減少を認めた。phosphatidylinositolやphosphatidylglycerolにへ大きな影響は及さなかった。カルジオリピン量はcKOマウスにおいて僅かに減少した。cKOマウスおよびfl/flマウスの体重、骨格筋重量に有意な差異は認められなかった。さらに、四肢握力、運動継続能力を測定したところ、四肢握力には変化はなかったが、運動継続能力がcKOマウスで低下した。次に、骨格筋より単離した骨格筋細胞におけるミトコンドリア呼吸鎖酵素活性を解析したところ、cKO由来ミトコンドリアにATP産生時の酸素消費量低下が認められた。これら解析によりLPGAT1が骨格筋に含まれるリン脂質性状に影響し、ミトコンドリア機能、運動継続能力の維持に関与することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
LPGAT1-cKOマウスの作出を完了し、骨格筋において18:0-PC量の違いを説明できる遺伝子はLPGAT1であり、LPGAT1が特定のリン脂質のsn-1位にstearoyl基を導入することを見出した。また、骨格筋特異的LPGAT1欠損マウスにおいて、運動継続能力が低下することを認めており、LPGAT1によるPCのsn-1位に結合する脂肪酸のリモデリングが、遅筋特性の発揮や維持に重要な役割を果たしていることが示唆された。
LPGAT1が骨格筋において筋機能や運動能力とどのように関係しているのかについては、未だ不明である。LPGAT1-cKOマウス骨格筋のプロテオミクス解析を実施し、どのタンパク質の存在量が大きく変化するかを調べ、膜リン脂質変化がどの骨格筋タンパク質に影響するかを明らかにする。その結果をもとに、リン脂質の質の影響を受けるオルガネラ機能の変化を調べ、リン脂質の質と骨格筋機能の関係性を明らかにする。
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