研究課題/領域番号 |
21H03372
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
鈴木 英雄 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (00400672)
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研究分担者 |
磯辺 智範 筑波大学, 医学医療系, 教授 (70383643)
岡田 浩介 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (80757526)
正田 純一 筑波大学, 医学医療系, 教授 (90241827)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | NASH / RNP / 抗酸化剤 / p62 / Nrf2 |
研究実績の概要 |
p62・Nrf2遺伝子二重欠失(double knockout; DKO)マウスはNASHを自然発症し,高齢期に肝癌を発症する(Exp Anim, 2018).更に,高脂肪食の摂餌により発癌率は増加する.一方,レドックスナノ粒子(RNP)は,腸管経由で肝に滞留し,抗炎症・酸化ストレス作用を発揮する(Nanomedicine, 2015).本研究ではDKOマウスにRNPを経口投与し,NASHの発症・進展と肝発癌の抑止効果を検討した. 6週齢の雄性DKOマウスに通常食,または,60%高脂肪食を摂餌させながら,RNPを26週間自由飲水投与した(約10 mg/日).通常食群ではRNP投与により肝線維化は抑制された.肝組織のRNA-seq解析では, RNPは小胞体(ER)ストレス応答関連遺伝子群の発現を減少させた.qPCR解析では,Tnf-alphaなどの肝炎症シグナル関連因子,malondialdehydeなどの脂質過酸化マーカーがRNP投与群で抑制された. 高脂肪食群ではRNP投与は肝癌発生を抑止した(対照群: 33%.RNP群: 0%).RNA-seq解析でRNPはERストレス応答関遺伝子群の発現を減少させた.さらに,RNPは非投与の腫瘍発生群と比較して, 肝癌シグナルであるPI3 kinase経路遺伝子群の発現を減少させた.RNPは高脂肪食摂餌によって低下した腸内細菌叢の種多様性 (alpha-diversity) を回復させ, 一部のLPS産生菌の割合を減少させた. RNPによりRNP非投与の腫瘍発生群と比較して, 肝LBP発現は低下していた. Nrf2はERストレスの改善に重要な役割を演じる.肝癌モデルでは,炎症・酸化ストレスの病態下にERストレスが肝臓に蓄積しており,一方,Nrf2欠失の状態,RNPは蓄積したERストレスを緩和し,肝線維化や肝発癌を抑止すると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NASHモデル:RNP投与により肝線維化は抑制された.肝組織のRNA-seq解析では, RNPは小胞体(ER)ストレス応答関連遺伝子群の発現を減少させた.qPCR解析では,Tnf-alphaなどの肝炎症シグナル関連因子,malondialdehydeなどの脂質過酸化マーカーがRNP投与群(R)で抑制された.腸内細菌叢解析では腸内細菌の組成に変化を認めなかった. 肝癌モデル:RNP投与は肝癌発生を抑止した(対照群: 33%.RNP群: 0%).RNA-seq解析でRNPはERストレス応答関遺伝子群の発現を減少させた.さらに,RNPは非投与の腫瘍発生群と比較して, 肝癌シグナルであるPI3 kinase経路遺伝子群の発現を減少させた.RNPは高脂肪食摂餌によって低下した腸内細菌叢の種多様性 (alpha-diversity) を回復させ, 一部のLPS産生菌の割合を減少させた. RNPによりRNP非投与の腫瘍発生群と比較して, 肝LBP発現は低下していた. ERストレス応答関連遺伝子群の発現が, 両群でRNPにより減少した原因検索のため,肝組織を用いた脂肪酸組成分析を行なったが, ERストレスの原因として知られているパルミチン酸などの飽和脂肪酸はRNP群で減少していなかった. RNPによるERストレス減少の原因は, 肝の飽和脂肪酸以外の別の機序が働いている可能性があると考えられた.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析で,RNPがNASHおよび肝癌モデルマウスの肝線維化と肝発癌を抑止することを明らかにした.今後はRNPが肝線維化,肝発癌を抑制した機序を解明することに焦点を当て,更に実験解析を進める. RNPの抗酸化作用が肝線維化,肝発癌の抑止に関わることが示唆される.今後は,RNPの抗酸化作用の詳細なメカニズムを明らかにするため,培養肝細胞(Hepa1-6)にRNPを投与し,酸化ストレス消去能および酸化ストレス応答遺伝子の発現変化を解析する.更に,細胞外フラックスアナライザー(Agilent Technologies社製)を用いて,RNPがミトコンドリア機能に与える影響およびそのメカニズムの詳細を解明する. また,腸内細菌叢解析ではRNPが腸内細菌叢に影響を及ぼし,LPS産生や酸化ストレス発生に影響を与えた可能性も示唆された. 腸内細菌の組成の変化により短鎖脂肪酸、胆汁酸組成も変化し、線維化、肝癌発症に与えている可能性があるため, 便中脂肪酸解析、胆汁酸解析の追加も検討していく.
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