研究実績の概要 |
通常食(NASHモデル)または60%高脂肪食(HCCモデル)を摂餌させた雄性のDKOマウスに対して, SMAPOTNを26週間,自由飲水投与した(約10 mg/日). 通常食摂餌DKOマウスの対照群(C)とSMAPOTN投与群(S)では,mortalityや体重変化,解剖時の肝重量,白色脂肪組織重量に差を認めなかった.肝病理評価(SAF score)では,脂肪化はS群で高値である一方(C: 0.9 ± 0.1, S: 1.4 ± 0.2),炎症には差はなく(C: 1.2 ± 0.1, S: 1.0 ± 0.0), 線維化はS群で有意に抑制されていた(C: 1.1 ± 0.1, S: 0.2 ± 0.1).S群では肝炎症シグナルに関わる因子,肝線維化に関わる因子が抑制されていた.また, 酸化ストレスマーカーがS群で有意に抑制されていた. 高脂肪食摂餌DKOマウスでは,対照群(HC)で17 /52例(33%)に肝癌が認められたのに対し,SMAPOTN投与群(HS)では明らかな肝癌発生は認められなかった(0 /10例).また,HR群の線維化は有意に抑制されていた(HC:4.0 ± 0.0, HS:3.4 ± 0.2).HS群では,肝臓における血清リポ多糖(LPS)濃度とLPS結合タンパク質(LBP)の発現は, HC群と比較して有意に低値であった. また,腸内細菌叢のゲノム解析では,HC群と比較してHS群の腸内細菌の種多様性(diversity)が増大しており, LPS産生菌やプロバイオティクス関連菌を含む腸内細菌叢の組成に変化が見られた. 本研究の結果からSMAPOTNは肝における酸化ストレス, ERストレスの発生を軽減し,肝線維化を抑止することより肝発癌を抑止するものと考えられた.また, SMAPOTNが腸内細菌叢の種多様性を改善し, 腸から流入するLPSを減少させることにより, 「腸-肝連関」の観点から, NASHだけでなく肝癌に対しても予防効果があることを示した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SMAPOTNの経口投与は, DKOマウスのNASHにおける肝線維化の進展を抑制し, 肝癌発症を抑制した. SMAPOTNは肝臓のERストレス, 腸管の腸内細菌叢の双方を改善させる効果を有する. SMAPOTNはNASHだけでなく, NASH-肝癌の高リスク群に対して予防効果を発揮しうる生体材料として有用であることを解明出来た.
|