研究実績の概要 |
前年度の研究で、妊娠高血圧と関連する新規ペプチドの血中レベルが動脈硬化リスク要因と関連することが明らかになった。そこで、これらのペプチドに関して、代表的な動脈硬化性疾患である下肢動脈疾患(LEAD)における下肢虚血の程度との関連性を相関分析およびロジスティック回帰分析により検討した。下肢動脈虚血は安静時の足関節上腕血圧比 (ABI) および下肢運動負荷後のABI低下の程度により評価した。m/z 2081, 2127, 2209 の各ペプチドレベルはABIと有意な正の関連性を示し、下肢運動負荷後のABI低下度と有意な負の関連性を示した。一方、m/z 2091, 2378, 2858 の各ペプチドレベルはABIと有意な負の関連性を示し、下肢運動負荷後のABI低下度と有意な正の関連性を示した。m/z 3156 のペプチドはABIおよび下肢運動負荷後のABI低下度のいずれとも有意な相関を示さなかった。7つのペプチドレベルの相関を検討したところ、ペプチドの全21ペアの中で、18ペアにおいて有意な正または負の相関を認めた。スピアマン順位相関係数の絶対値が0.8以上の強い相関を認めたペアは、m/z 2081と2127、m/z 2081と2209、m/z 2091と2378、m/z 2127と2209、m/z 2127と2378の各ペアであった。m/z 2081, 2127, 2209のペプチドはいずれもキニノーゲン-1の分解産物であり、m/z 2091と2378はそれぞれフィブリノーゲンα鎖と補体C4の分解産物である。すなわち下肢虚血時にはm/z 2081, 2127, 2209 のペプチドレベルは低下し、m/z 2091と2378のペプチドレベルは上昇すると考えられる。したがって、これらの血中低分子量ペプチドはLEADにおける重症度の指標になることが示唆された。
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