研究課題/領域番号 |
21H03454
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高橋 徹 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (90360578)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 電磁波動散乱問題 / 境界要素法 / 高速アルゴリズム / 時間領域 |
研究実績の概要 |
2022年度は、前年度に課題として残した3次元電磁波動散乱問題用の高速時間領域境界要素法(TDBEM)の改善に取り組んだ。具体的には、電場積分方程式(EFIE)の時間微分を行うことによって、計算コストをO(M)(ここで、Mは時間ステップ数)に保ちつつ、Herzベクトルeの代わりに表面電流Jを直接扱うこととした。しかし、時間微分されたEFIEは時間不安定であるため、何らかの磁場方程式(MFIE)との結合が必要であるが、時間微分されたEFIEに時間微分されたMFIEとMFIEそれ自体の両方を結合して得た結合型CFIEが時間安定であることを数値実験的に見い出した。これをもって本研究課題の核心である高速TDBEMの完成とした。これは3次元電磁波動散乱問題に対する新しい数値解析手法の提案であり、その計算科学/物理分野における基礎研究的な意義は深い。この成果は11月に国内学会発表を行い、計算物理学の専門誌に論文が受理された(3月)。なお、前年度に定式化した高速TDBEMに関する国内学会発表(6月)および国際学会発表(7月)もそれに先立ち行った。次に、本研究経費で調達したPCクラスタ上で当該高速TDBEMのハイブリッド並列化(=OpenMPとMPIの併用による並列化)の実装に成功した。並列化効率は概ね高々50%程度に留まったが、メモリ分散が可能である点は大規模解析の実行に有用である。 一方、最終年度に研究予定している形状最適化に関する予備的検討として、3次元スカラー波動方程式に関する随伴変数法に基づく形状最適化の研究を行い、6月に関連論文が専門誌に受理され、11月に国内にて研究発表に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に持ち越しとなった本研究課題の核心部分の研究、すなわち高速かつ時間安定な時間領域境界要素法(TDBEM)の構成が達成された点において本研究の進捗状況は、昨年度の「やや遅れている」から一転して、順調化したと言える。 また、研究開始当初のR4年度の目的であったメモリ分散計算環境(本研究はPCクラスタ)における当該TDBEMの並列コードの開発は、計算ノードのロードバランスの均等化の観点から苦心したが、並列コードの実装上の観点から最もシンプルである空間分割を採用することとした。結果、並列コード開発は大きな支障なく遂行できた。ただし、並列化効率が高々50%程度に留まった一因はロードバランスの不均一性が原因である可能性もあり、より多くの問題(特に、散乱体の空間配置が一様でない問題)を解析して、その結果から並列化の指針を探索する必要がある。 さらに、3次元スカラー波動問題に対する形状最適化の開発に成功した点は、最終年度に予定している3次元電磁波動散乱問題に形状最適化の土台となる。この意味においても進捗状況は概ね順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
開発したハイブリッド並列化高速TDBEMの応用可能性および付加価値を高める観点から、(時間領域境界要素法を含む)境界要素法が元来得意とする形状最適化に取り組む。その基礎となるのがR4年度に開発した3次元スカラー波動問題に対する形状最適化である。当最適化では、形状感度(形状微分)に基づく非線形最適化手法によるものであり、設計変数は散乱体の表面をNURBS曲面でモデル化した際の制御点である。本電磁波動散乱問題においても同様なフレームワークを構築することを最終目的とする。その形状感度については既往研究において導出されていることが本研究課題の開始後に文献調査を経て判明したが、具体的かつ大規模な問題に対する数値解析については研究例がない。したがって、本高速TDBEMを用いた形状最適化問題の実行は依然として大きなインパクトがあると考えられる。ただし、形状感度(あるいは目的関数)を計算するためには、本境界要素法にいわゆる内点計算を組み込む必要があり、その開発から始める必要がある。その上で、形状感度を用いない場合(例えばCOBYLA法を用いる)の最適化計算が実行できるかについて確認後、形状感度の計算ルーチンの数値実装し、形状感度に基づく形状最適化手法の構築を行う。
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