研究課題/領域番号 |
21H03468
|
研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
入野 俊夫 和歌山大学, システム工学部, 教授 (20346331)
|
研究分担者 |
松井 淑恵 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10510034)
小林 洋介 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 助教 (10735103)
坂野 秀樹 名城大学, 理工学部, 准教授 (20335003)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 音声聴覚支援 / 音声明瞭度 / 音声了解度 / 模擬難聴 / 客観評価指標 / 主観評価 / 聴覚モデル |
研究実績の概要 |
【1】聴覚末梢系特性の的確な推定と聴覚末梢モデルGCFBの高精度化: 聴覚フィルタ推定における「レベル依存の蝸牛雑音フロア」に関し、静音時の雑音分布を特定することに成功し、国際会議に投稿した。GCFBに関して難聴者の特性をよく反映させてかつ高速処理ができるような実装の内容について、以下のWHISの処理とともにまとめて発表した。 【2】模擬難聴システムWHISへの時間応答特性劣化の導入と高度化: 模擬難聴システムWHISを新しいGCFBに基づいて新実装することができた。WHISの評価も蝸牛入出力関数やスペクトル距離に基づいて行い、従来手法よりも良いことを実証した。時間応答特性劣化の導入もできることを示して実装した。この結果を研究会で報告し、ソフトウェアを公開した。さらにこのWHISをC言語化して高速化することを進めた。 【3】高齢難聴者の音声/環境音知覚特性の明確化: WHISを用いて健聴者で音声明瞭度実験を行い、聴覚中枢系以降の難聴要因を除いて、末梢系の要因の影響を調べた。70歳・80歳の難聴を模擬した音、原音声、-20dB音圧低減音の4条件の音声了解度実験である。20歳代だけの防音室実験と、幅広い世代が参加したクラウドソーシング遠隔実験を行なった。遠隔参加者の聴取条件や環境を明確にするために導入したトーンピップテストが、良いデータスクリーニング手法となることを見つけた。今後、遠隔実験を展開するにあたり重要な発見である。 【4】明瞭音声特徴量の抽出と高齢難聴者対応の音声了解度客観評価指標の開発: 【3】で示した実験データを非常によく予測できる新しい客観評価指標GESI (Gammachirp Envelope Similarity Index)を開発し、国際会議に投稿するとともに特許化への処理を進めた。これにより個別の難聴者対応ができる可能性が大きくひらけた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
【1】に関してはほぼ完了した。 【2】【3】に関してはおおむね計画どおりである。 【4】において、個別の難聴者にも対応可能と考えられる新しい客観評価指標GESI を開発できたことの意義は非常に大きい。このような指標を本科研の最終年度までに作れれば成功と考えていたが、初年度で達成できた。特許申請を行うとともに、さまざまな実験データに適用する。これの効果の実証と改良を実験データを元にすれば良いようになったので、方向性が明確となり、さらなる発展が期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
【1】聴覚末梢系特性の的確な推定と聴覚末梢モデルGCFBの高精度化: これに関しては健聴者対応は十分進んだと判断した。高齢難聴者の聴覚フィルタ推定のためのデータ収集と適用に関しては、コロナの収束状況次第で実施したいと考えている。 【2】模擬難聴システムWHISへの時間応答特性劣化の導入と高度化: WHISの論文を早い段階で論文として投稿し、すでに公開しているソフトウェアの利用を促進する。WHISをC言語化して高速化し、GUIを付加することに関して今年度中には完成させる。時間応答特性劣化の模擬に関して、現状版では不可避である歪み問題の解決法を探る。 【3】高齢難聴者の音声/環境音知覚特性の明確化: WHISによる聴取実験を様々な条件で実施する。昨年度男声で行なった実験を女声で実験を行う。さらに音声強調処理に関する実験もさらに展開する。これらはGESIの有効性を示す実証データとして利用する。これにあたって、クラウドソーシング実験の参加者プールを100~200人規模で作る予定である。トーンピップテストを改良して、参加者属性をある程度特定し、実験の種類(たとえば健聴者のみ対象とするのか、難聴者を対象とするのか)によって、参加者を選んで依頼できるようにする。これにより、効率的かつ効果的に聴取実験を実施できるようになる。研究室での高齢者実験も進めたいが、これはコロナの収束状況次第である。 【4】明瞭音声特徴量の抽出と高齢難聴者対応の音声了解度客観評価指標の開発: GESIを様々な実験データに適用して、その効果を実証する。うまく説明できない部分が出た場合、原因を究明するとともに、改良を重ねる。模擬難聴実験の結果と実際の高齢難聴者の結果の差分が、聴覚中枢系から認知系の要因による機能低下分と考えられるが、このモデル化を進める予定である。
|