研究課題/領域番号 |
21H03506
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
浅井 哲也 北海道大学, 情報科学研究院, 教授 (00312380)
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研究分担者 |
赤井 恵 北海道大学, 情報科学研究院, 教授 (50437373)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | メモリスタ / 三次元配線 / ニューラルネットワーク / PEDOT:PSS / 導電性ポリマー / ニューラルネットワーク |
研究実績の概要 |
Artificial Neural Network (ANN) は情報科学分野の多くのアプリ領域で使用されており、そのソフトウェアは広く認知され日常的に利用されている。ソフトウェアANNと比較すると、ハードウェア ANN はまだその研究開発が未成熟である。アナログのハードウェアANNにおいては、様々なデバイスの利用が検討されており、中でも「導電性分子ワイヤ」はハードウェアANNの実装に有望なデバイスの1つであると我々は考えている。このデバイスは「分子シナプス」と呼ばれ、2つの魅力的な利点がある。第一に、電極以外のデバイスを事前に製造する必要がない。ワイヤを2つの電極の間で成長させ導電経路を作成する。ANNが少数の接続のみ使用する場合、必要なワイヤだけが成長するため、配線の無駄が発生しない。第二に、導電性分子ワイヤの配線は1次元空間に制限されていない。現在、2次元配線によるニューラルネッワークデバイスの作成に成功しており、本研究では、3次元のニューラルネッワークデバイスの可能性を探った。3次元接続性は脳の構造に近づくため興味深い。しかし、3次元固有の問題も発生する。ハードウェア ANN では負の重みを抵抗で表現できないため、正負両方の重みを表現するために差動回路を用いる必要がある(2倍のワイヤが必要になる)。そのため、ワイヤ同士が交差し接触する可能性が高い。本研究では、分子シナプスの2D実験を再現するシミュレータを構成し、現在のデバイスの問題点(交差問題)を明らかにした。そこから、電極製造とワイヤの成長に関するいくつかの3D実装法を提案した。その後、ネットワークの接続数を削減するための「ランダムウェイト削減法」を提案し、そのアーキテクチャを一般的な問題に適用し評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年のAI専用ハードウェアのアーキテクチャの一つに2Dクロスバーモデルがあるが、このモデルは全結合型のニューラルネットワークの実装に適したものである一方、畳み込みニューラルネットワークなど近傍結合のみで構成された構造を実装する場合に大きな無駄が生じる。そのため、脳のような立体的な新規アーキテクチャおよびシナプス素子の開拓が望まれており、我々はCBRAMから着想を得た三次元アーキテクチャを提案した。CBRAMに電流を流すと電位勾配に沿って電極間に導電性フィラメントが発生し配線が形成される。導電性フィラメントの発生を電極点間で制御することで、原理的には三次元空間内を自由に配線できるはずである。CBRAMを立体的に集積し、脳のような三次元デバイスを構築する。CBRAMの一種として、有機ポリマー(PEDOT:PSS)を用いた。前駆体溶液とそれに浸した電極に矩形波交流ポテンシャルを印加することで、電解重合により導電性高分子PEDOT:PSSワイヤーが発生する。当該年度は、このPEDOT:PSSワイヤー成長のモデルを考案しシミュレータを作成し、三次元的な電極配置による実験で起こる問題を予見した。まず、PEDOT:PSSワイヤー成長の特徴を「空間量子化した溶液空間内で最も電流が流れた場所を、導電性ポリマーワイヤーに変化させる」という形に単純化し、これを基本原理として2次元のシミュレータを作成し、既存の実験との比較検証を行った。次にこのシミュレータを三次元へ拡張した。電位分布の解析方法には二次元シミュレータでは節点法を用いたが、三次元シミュレータでは計算規模が増大したことに対処するため、オイラー法を用いて電位分布を解析した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、脳内で無数の神経細胞が織りなす階層的な3次元近傍結合構造に学び、導電性ポリマー細線の複数電極間高次元配線を試みる計画である。2次元平面及び3次元立体空間上へ複数の電極を液中配置し、これらへ印加する重合電圧を制御することで所望の電極間へのみ選択的に細線を配線する技術を確立する。これにより、情報処理に必要なネットワークを軸索誘導のごとく一からその場形成し得ることを示す計画である。また、ネットワーク形成後の電極へ外部電圧を印加することでゲート効果による細線の導電性変化が誘起され、電圧スパイク印加に伴う側抑制的な抵抗変化やリザバー計算等に利用可能な非線形応答が観測される可能性がある。これらを示すことができれば、形成されたネットワークが生理学的にも妥当な情報処理能力を有していることを示唆することになるだろう。 さらに、脳の計算論に学ぶアプローチとして、脳機能を変分自由エネルギー最小化の観点で統一的に記述可能な自由エネルギー原理に着目し、知覚や学習を本原理に基づき実行可能なマテリアル知能の理論モデルを構築する予定である。脳の計算論的なモデルとして古くから知られる予測符号化を変分自由エネルギー最小化の観点からネットワークグラフの形で再記述し,近年のニューロモルフィック工学において提案されているリザバーや拡張Direct feedback alignmentといった、生理学的にも妥当なモデル及びアルゴリズムをこれに適用する計画である。
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