本年度は以下の研究を進めた。 (1)ファージと宿主細菌の関係を種や属レベルで同定するために、全ゲノム配列埋め込みを学習する対照学習に基づくアプローチを提案した。2つのベンチマークデータセットを用いて、本手法を最新の学習ベースの手法と比較した。その結果、対照学習を用いた提案手法は宿主細菌予測の精度を向上させた。 (2)ヒト疾患における細菌および細菌由来酵素の機能性を特定するために、ジーンオントロジーの関連ネットワークを組み込んだニューラルネットワークベースのモデルを提案した。糖尿病、肝硬変、炎症性腸疾患、大腸がんを含む4つのベンチマークデータセットを用いて、ヒト疾患における細菌の機能性を解析した。また、提案手法は、疾患予測において優れた性能を示した。 (3)KEGGに蓄積された情報を用いてマルチオミクスデータの可視化・解析を行う基盤的なRパッケージ ggkegg を開発した。更に、クローン病患者の腸内細菌叢メタゲノムデータから、患者と健常者で差異のある代謝経路をKEGGの包括的な代謝経路情報に反映し、研究結果の効果的な可視化が可能なことを示した。 (4)健康な成人男性20名の腋窩から抽出された体液のサンプルを収集し、臭気判定士の判定に基づいてC型11名とM型の9名に分類した。代謝物として、C群で悪臭の原因となる代謝物の前駆物質が増加していることが確認された。そこで、腋窩皮膚細菌叢のショットガンメタゲノム解析を実施し、C型で臭気前駆物質の産生に関わっている常在性ブドウ球菌が有意に増加しており、臭い物質の生成に重要な働きをしていることを突き止めた。さらに、この常在性ブドウ球菌に対する特異的な溶菌酵素を、メタゲノムデータを用いて探索し、精製可能な新規溶菌酵素配列を取得した。
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