研究課題/領域番号 |
21H03586
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福田 秀樹 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (30451892)
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研究分担者 |
横川 太一 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭研究プログラム), 研究員 (00402751)
山田 洋輔 沖縄科学技術大学院大学, 海洋生態物理学ユニット, ポストドクトラルスカラー (80773720)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 凝集 / 溶存態有機物 / 沈降粒子 / 吸着確率 |
研究実績の概要 |
海洋表層において生物群集により生産された有機炭素を取り込んだ凝集物が深海へと輸送されるプロセスは生物ポンプと呼ばれ、温暖化に対するその炭素輸送量の応答が注目されている。凝集物の生成過程は、物理的な「衝突」と衝突した有機物同士の「吸着」の二つの要素に分割できるが、衝突後の「吸着確率」の変動機構についてはその理解が遅れている。本研究では、有機物の化学組成ではなく「吸着確率」に解析の主眼を置き、海洋の広大な面積を占め、水温・栄養塩類濃度といった物理化学的環境・微生物群集の種組成が大きく異なる亜寒帯域と亜熱帯域を対象として、変動を支配する代謝過程の把握を軸に明らかにすることを目的としている。 令和3年度は5月に亜寒帯域で行われた調査航海にて試料を採取し、吸着確率の見積もりに必要なサイズ分布の経時変化および吸着時の立体構造が反映される沈降速度の測定に向けての予備試験を行った。また本課題で使用するホログラフィ式粒子計測装置(LISST-Holo2、米国Sequoia社)の取得を行ったが、LISST-Holo2は既設のLISST-Holoをアップグレードする形での導入となったため、Sequoia社へはこの亜寒帯海域での航海にてLISST-Holoを用いた試験を実施した後に送付した。その後、大槌湾にて採取した試料を用いてLISST-Holo2の試験を行ったほか、3月に行った沖縄周辺海域にて行われた研究航海にて粒子サイズの野外計測およびマリンスノーキャッチャーで採取した沈降粒子を用いてサイズ分布の経時変化および沈降速度の測定を行った。採取した沈降粒子中の微生物群集の種組成はR4年度の分析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
LISST-Holo2の導入にあたっては既設のLISST-Holoをアップグレードの形での導入となったが、LISST-Holoの部品廃棄に向けた事務手続きからメーカーでの作業完了までに要した期間が本課題の申請時点で得られていた情報の約2倍に当たる約4か月という期間を要したことから、3月の研究航海の前に予定していた機器の試験を十分に行うことが出来なかった。そのため船上では装置の特性の把握に時間を取られ、実験を実施回数が計画よりも少なくなってしまった。幸い令和3年度中に申請した令和4年度の調査航海の申請が採択され、令和4年度中に再び同海域にて同様の観測が行える見通しが得られたことから、データの蓄積は引き続き行うが出来ると考えている。また他の研究課題にて取得した回転式培養器内の粒径分布をLISST-Holo2にて連続的に観察するため必要な改良についても令和3年度内に着手することが出来たが、LISST-Holo2の導入の遅れにともない回転式培養器を用いた実験については令和4年度に行うこととなったため、改良が十分であったかの検証が不十分である。 これら実施計画より進捗が遅れている点があるものの、試料採取の機会が再び得られる見通しとなったことから、進捗状況は「やや遅れている」とする。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は令和3年度の3月に実施された航海で得られた試料の分析を引き続き行うほか、5月に亜寒帯域にあたる東北沖での調査航海および10月に亜寒帯域にあたる沖縄周辺海域での調査航海にて、令和3年度に整備した粒子計測装置および回転式培養装置を用いたデータの蓄積を行い、三つのサブテーマ(「吸着確率を高める特徴的な代謝過程は何か?」、「吸着確率を高める環境要因は何か?」、「吸着確率を高める特徴的な代謝過程に海域的な普遍性はあるか?」)といて定められた問いに対する回答を得ることに挑む。また解析より得られた知見より新たな作業仮説を設定し、室内での疑似培養実験を通じてこれらの仮説の検証を行う。室内での実験は申請時には東京大学大気海洋研究所の大槌沿岸センターおよび沖縄科学技術大学院大学の設備群を利用することを計画していたが、分担者が海洋研究開発機構の高知コア研究所へと移動となったことから、高知コア研究所の施設群の利用も検討する。これらの施設群を利用し、亜熱帯起源および亜寒帯起源の水塊より微生物群集を採取し培養実験を用いた検証を行っていくことを計画している。
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