研究課題/領域番号 |
21H03589
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
長濱 智生 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (70377779)
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研究分担者 |
村田 功 東北大学, 環境科学研究科, 准教授 (00291245)
森野 勇 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球システム領域, 室長 (90321827)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | イソプレン / 赤外分光法 / 対流圏オゾン / 大気汚染物質 / 長期変動 / リトリーバル解析 |
研究実績の概要 |
本研究は赤外分光法による太陽光吸収スペクトル観測から大気中の揮発性有機化合物の1/3を占めるイソプレン濃度を解析する手法を新たに開発し、過去20年以上に及ぶ観測データから大気中のイソプレンと大気汚染物質の濃度を解析してそれらの関係と要因について化学輸送モデルも活用して解明することが目的である。 2年次は、陸別及びつくばで稼働する高分解能FTIRによる太陽光吸収スペクトル観測を継続した。名古屋に設置した高分解能FTIRは、初年度末に発生した装置と制御コンピュータの間での通信障害の対策を進めた。メーカの協力のもと、制御PC内蔵インターフェースボードの交換、装置本体のコントローラボードの交換、He-Neレーザーの交換を行ったが依然として問題は解決できなかった。 イソプレンカラム量の解析については、陸別で取得された1995年以降の全データに対して波数幅6.5cm-1の狭帯域と波数幅25.4cm-1の広帯域の2つのプロトコルによる解析を行った。狭帯域プロトコルに関しては、水蒸気による吸収の影響を軽減するために、影響が大きい2つの波長帯のスペクトルデータを除外するよう改訂し、解析を行った。15年以上の長期に及ぶデータの解析から、陸別上空でのイソプレンカラム量の季節変動、長期トレンド、突発的な増加現象などの時間変動を得た。季節変動については、どちらのプロトコルにおいても、夏期に最大、冬期に最小となり、これまでの知見と矛盾しない結果が得られた。また季節変動幅から3倍以上超過してイソプレンカラム量が増加する突発的増加イベントを見出した。特に、1999年3月の増加イベントは約1か月間継続する特異なものであった。このイベント時のイソプレンとそれから生成されるホルムアルデヒドのカラム量の相関解析から、短寿命であるイソプレンの実効的な消失時間が1日程度と約10倍長くなっていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
名古屋での観測に関してはやや遅れており、最大の問題であるFTIR装置と制御PC間の通信障害が未だに解決できていない。メーカと共にインターフェースボードの交換や配線の確認など様々な対応を試みているが原因の特定に至っておらず、引き続き障害解決に向けて取り組む。 イソプレンカラム量の解析に関しては、2種類の解析プロトコルを用いた陸別での観測データの長期解析を行い、従来の知見と矛盾のない季節変動をとらえることができた。これにより本解析によるデータが信頼できるものであることが確認され、計画通り順調に進んだ。しかし、これらの結果をもとにした解析プロトコルの国際地上観測ネットワーク(NDACC)への提案については、ポスドク研究員を雇用することができなかった影響により、提案する資料の整備およびドキュメント作成が遅れている。 また、ラグランジュ型化学輸送モデルによるシミュレーションについては、前年度に実行環境は整ったものの、対流圏における化学反応モデルの取り込み作業とプログラム改良が遅延し、想定したテスト計算が完了せず、計画よりもやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
赤外領域の太陽光吸収スペクトルからのイソプレンカラム量解析及び大気汚染物質の濃度解析については概ね計画通りに進展した。今後、つくばでの長期観測データの解析を進める予定である。また、イソプレンカラム量解析の標準プロトコル作成についてはやや遅れているものの、ドキュメント作成が進行中であり、本研究期間内にNDACCに提案できる見込みであり、目標が達成できると考えている。なお、標準プロトコル作成のための研究員確保は、残りの研究期間を考えると、現実には極めて困難であるため、取りまとめ補助を担う短期のアルバイト雇用で対応することを検討する。 ラグランジュ型化学輸送モデルへのイソプレン化学反応及びエアロゾル生成等の対流圏化学反応の組み込みについては、テスト計算が未達成で計画よりもやや遅れている。次年度は、博士課程に進学する大学院生1名が化学輸送モデル開発とモデル計算を研究テーマの一部として予定しており、研究期間内に研究を進展できると考えている。 一方、名古屋での未だFTIR観測が開始できていないことは、研究を遂行する上での大きな問題点である。FTIR装置と制御コンピュータとの通信障害の早期解決のために、これまでメーカとの密な連絡と対策を行ってきたが、未だに原因の特定し、状況を改善することができていない。また、次善の策として陸別観測所より移送したポータブル高分解能FTIR装置による観測準備も進めたが、こちらも光学系の調整に時間がかかり、観測開始には至っていない。研究期間中に観測を実行するために、引き続きメーカの協力のもと大型FTIR装置の稼働を最優先に進める。
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