研究課題/領域番号 |
21H03599
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
渡邉 朋信 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 教授 (00375205)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 放射線被ばく影響 / 低線量域 / ラマン散乱スペクトル計測 / iPS細胞技術 / 個人差研究 / 光学顕微鏡 |
研究実績の概要 |
2022年度は、2021年度に列挙された問題点を回避または解決するように詳細計画を変更しつつ、最終目的達成のための主に以下三項目をついて実施した。 (1)市販されている人種の異なる5種類のヒトiPS細胞株の胚様体に対し、0.0~4.0グレイまでのγ線を照射し、その後の成長速度、および、ラマン散乱スペクトル計測を実施した。順次、繰り返しデータ収集を行っており、本年度末で、253G1, 648A1の2株について統計解析できる程度のデータが確保できた。解析の結果から、放射線被ばく後の胚様体の成長度およびラマン散乱スペクトルは、線量2.0グレイを境に、253G1株と648A1株で反応が異なっており、それらのデータ間に相関があることが示唆された。 (2)(昨年度より)過去に報告されていたマウス胚性幹細胞の放射線照射による晩発性心筋分化不全について、ヒトiPS細胞を用いた再現実験を行ってきたが、本年度で終了した。ヒトiPS細胞でも、放射線照射後に生存した細胞は分化多能性を維持し、心筋細胞にまで正しく分化すること、また、分化した心筋細胞の一部は機能不全を有することが明らかになった。これにより、ヒトiPS細胞に対する放射線被ばくによる晩発性機能不全発症実験モデルが確立できたと言える。 (3)ラマン散乱スペクトル計測の効率化のため、固定細胞を用いたアッセイ系の確立を目指していたが、細胞内要物の漏出が胚様体全体で一様でない、などの理由により、計測系の安定性が低下した。代替法として急速凍結法を適用した。放射線照射後の胚様体を急速凍結し、(計測前に)溶解したのち単分散させ再度胚様体が形成されるまで培養する。その胚様体のラマン散乱スペクトルを計測する。この方法では、比較可能な項目は修復/回復されなかった影響に限定されるが、効率かつ安定な計測が実現できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度のハダカデバネズミのiPS細胞の樹立に続き、今年度も実験の詳細に変更が必要な箇所が発生したものの、目的である実験プラットフォームの確立に向けて着実に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度も2022年度に引き続き、開発した計測システムを用いて、人種の異なるヒトiPS細胞株5種類の胚様体の成長速度およびラマン散乱スペクトルを継続して行う。また、(上述の進捗には記述していないが)収集した計20種類のiPS細胞株のラマン散乱スペクトルと遺伝子発現プロファイル (RNAシーケンス)のデータペアについて、交差相関解析を実施する。 また、目的達成に向けて、ヒトiPS細胞培養の時間コストおよび予算コストの高さが、新たな問題として挙がった。純粋なヒトiPS細胞のラマン散乱スペクトルを取得するためには、培養中にフィーダー細胞を混在できないため、フィーダーフリー化してから胚様体を作成する。そのためには幾度にも継代培養が必要であり、現時点においては、何千/何万人分のデータを収集することは難しい。今後の培養コストの廉価化や大型予算の獲得が必須である。それを待たずして放射線被ばく影響の個人差調査を開始するために、定量性は低くも安価かつ簡素な放射線被ばく応答評価方法を用意しておきたい。簡潔に集められる個人試料として爪や毛髪が当該領域では使用されており、23年度は上記の実験項目に平行して、毛髪を用いたラマン散乱スペクトル計測による個人差評価のフィージビリティ調査も実施したい。
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