研究課題/領域番号 |
21H03631
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
児玉 昭雄 金沢大学, 新学術創成研究機構, 教授 (30274690)
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研究分担者 |
汲田 幹夫 金沢大学, フロンティア工学系, 教授 (60262557)
大坂 侑吾 金沢大学, 機械工学系, 准教授 (70586297)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 吸着 / 二酸化炭素 / 廃熱利用 |
研究実績の概要 |
吸着材の熱伝導加熱を可能とする内部熱交換型TSA操作を確立し,従来型のTSA操作では困難であった低温度再生による強吸着質CO2の濃縮回収の実現を目指す。そのため,1.内部熱交換型吸着塔内で生じる熱と物質の同時移動現象の可視化およびCO2と共存水蒸気の競合吸着現象の解明,2.吸着材充填層の伝熱性向上と最適な吸着材特性の検討を通じた内部熱交換型吸着塔の最適化,3.プロセス設計・操作指針の基盤構築に取り組んでいる。 CO2と共存水蒸気の競合吸着現象の解明について,ゼオライトは水蒸気を強吸着し80℃程度の加熱では脱着することができず,温度スイング吸着操作が成立しない。よって,疎水性吸着材である分子ふるい炭素CMSを検討対象とした。吸着破過‐脱着実験において,分子ふるい炭素CMSは水蒸気吸着(脱着)量の増加によってCO2脱着速度が低下するが,水蒸気よりもCO2脱着の優先度が高く,CO2吸脱着量は原料ガスの湿度に依存しないことがわかった。この点で,CMSはゼオライトに代わるCO2吸着材になり得る。 吸着材充填層の伝熱性向上に関して,CaA型ゼオライトの塗布を引き続き検討した。吸着材層厚みを変化することに加えてフィンピッチや熱交換器サイズを違えて吸着材表面積の影響についても検討した。吸着材は迅速に冷却・加熱されて吸脱着速度が大きくなり,短いサイクル時間で最大性能を示すことを確認した。一方で,吸着材搭載量が少ないために長時間のサイクル運転では性能低下が生じる。吸着材塗布厚みを増すこと,熱交換器容積を大きくすること,もしくはフィンピッチを狭めて吸着材塗布量を増加させることでCO2濃度,回収率ともに高い値となることを実験で示し,吸着材表面積が重要な要素の一つであることを見出した。一方で,吸着材塗布に代わる熱交換器への吸着材担持と熱交換器自体の熱容量の低減施策についても検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究項目1「内部熱交換型吸着塔内で生じる熱と物質の同時移動現象の可視化」について,分子ふるい炭素におけるCO2と水蒸気の競合現象を追跡し,本研究で想定する温度スイング操作でもCO2吸着能が維持できることがわかった。原料ガス流れ方向の水蒸気濃度変化の把握などプロセス設計に重要となる検討も進めているが,系統的なデータ取得に時間を要している。 研究項目2「吸着材充填層の伝熱性向上と最適な吸着材特性の検討を通じた内部熱交換型吸着塔の最適化」について,吸着材塗布厚みや熱交換器サイズを変えながら性能評価実験を進めることができた。この結果,原料ガスとの接触面積の増加と熱容量低減のための熱交換器の簡素化が重要であるとの結論に到達した。この結果を受けて,良好な伝熱特性を保ちながら必要となる吸着容量を積載し,かつその利用効率が最大となるようにフィンピッチ,吸着材塗布厚み,吸着塔サイズを相互の最適化を進めている。しかし,塗布対象吸着材はCaA型ゼオライトに限っており,またその塗布技術も完全ではない。 研究項目3「プロセス設計・操作指針の基盤構築」については,前年度に示した 2段吸着に続き,脱着出口ガスの時間分割と吸着塔への再還流操作の有効性を確認するための実験装置の改造を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
1.CO2と水蒸気の競合現象の把握・解明と分離濃縮性能との関連付け CO2と水蒸気の競合吸着現象の解明をさらに前進させる。吸着材として,前年度の検討により共存水蒸気の影響を受け難いことが示された分子ふるい炭素,および共存水蒸気によりCO2吸着能が強化されるポリエチレンイミン(固体担持)を検討対象にする。特に後者はカーボンニュートラルの実現に向けて各所で利用が進むものの水蒸気とCO2吸着の関係は明らかになっておらず,その学術的解明が求められている。この点で原料ガスの水蒸気濃度を最重要パラメータとして吸着塔出口のガス組成と流量の経時変化を追跡し,分離濃縮性能との関連付けを行う。 2.内部熱交換型吸着塔の開発と最適化 (1)熱交換型吸着塔の開発:アルミ表面への吸着材(ゼオライト)担持を目指してきたが,分離性能および分離効率を高めるには吸着塔自体の吸着容量/熱容量比を大きくする必要があるとの結論を得た。また,ガス処理時の圧力損失は小さくしなくてはならず,吸着材の構造化は不可欠である。よって,ハニカム形状等に構造化した吸着材エレメントを伝熱面で挟み込む形式の熱交換型吸着塔を提案し,その試作を行う。この一方で,熱交換器伝熱面アルミ表面への吸着材塗布方法および吸着材充填層の伝熱性向施策の検討も継続する。 (2)温度スイング吸着TSAプロセスの開発;吸着等温線の測定と数値計算による性能予測を行い,内部熱交換型TSA操作に適した吸着材特性を明らかにする。吸着平衡と吸脱着速度の両面から吸着材特性と分離濃縮性能の関係を調べ,吸着材選択の方針を得る。さらに実験と数値計算によってプロセスの設計指針を検討する。
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