研究課題/領域番号 |
21H03633
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
二又 裕之 静岡大学, グリーン科学技術研究所, 教授 (50335105)
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研究分担者 |
田代 陽介 静岡大学, 工学部, 講師 (30589528)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 微生物燃料電池 / 硫酸還元細菌 / 細胞外電子伝達 / 代謝 / 電極呼吸 |
研究実績の概要 |
生物学的廃水処理、環境浄化およびエネルギー生産は、社会基盤を支える重要な技術であり、それらの安定的制御あるいは更なる効率化は必須の課題である。これらの技術の根幹は微生物の代謝にある。そこで本研究では、微生物代謝を自在に発現制御可能とする新規技術の構築を目標とする。特に、嫌気環境微生物の代謝制御は、エネルギー低負荷型技術の開発にとって必要不可欠である。代表的な嫌気微生物の一種である硫酸還元微生物は、有機物分解や金属腐食に深く関与する善悪両面から注目すべき微生物の一つである。我々は、硫酸還元微生物が細胞外電子伝達に伴い、これまで排出していた酢酸を利用し、硫化水素を発生しないこと、を見出した。以上の結果は、微生物代謝を電気的に制御できる可能性を示唆している。そこで本研究では、微生物代謝の電気的制御技術構築を究極の目標とし、当該微生物の細胞外電子伝達機構とそれに伴う代謝スイッチング制御機構の解明を目的とする。今年度は、異なる電子供与体および受容体存在下での生育評価および分子生物学的解析に向けた準備を実施した。 供試微生物硫酸還元細菌HK-II株は、電子供与体として乳酸および電子受容体として電極を用いた微生物燃料電池(MFC)条件下で電流生産が確認された。さらに、負電極電位を異なる電位に固定した条件下では、負の電位では電流生産を生じず、+0.2Vから+0.4V(vs SHE)でより高い電流生産を発揮し、特異的な電位に応答した細胞外電子伝達を行っていることが示された。どの様な遺伝子およびタンパク質が関与しているかどうかを調べるため、まず、HK-II株のゲノム解読を実施し、完全長の解読に成功した。今後、ゲノム解析、トランスクリプトーム解析、発現タンパク質解析を通じて、細胞外電子伝達機構の解明を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度の研究スケジュールでは、異なる電子供与体および受容体下での生育評価が主なテーマとして設定されている。電極電位を固定しない条件下で電流生産が確認されたものの、より厳密な解析を進める為には供試微生物硫酸還元細菌HK-II株の細胞外電子伝達に適した電位を特定する必要があった。今年度、研究概要でも示した様に、-0.6 Vから+0.5 Vの範囲で0.1V毎に電極電位を設定し電流生産を評価した結果、HK-II株の細胞外電子伝達に最適な電位を見いだせたことから、今後の解析に向けた基盤構築を達成できたと評価し得る。また、ゲノム解析では、完全長解析をようやく達成し、これまで推定されていた16S rRNA遺伝子のコピー数4ケが実際には5ケであることや、16S rRNA遺伝子情報からDesulfovibiro属と推定してものの、ゲノム完全長データからCupidesulfovibiro属であることが判明し、本属微生物としては初のゲノム完全長データの解析に成功した。もう1つの今年度の主なテーマはトランスクリプトーム解析に向けた準備であるが、上述した様に、細胞外電子伝達の最適電位およびゲノム完全長解読に成功したことから、トランスクリプトーム解析を開始できる基盤が整ったと評価され得る。よって、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、供試微生物硫酸還元細菌HK-II株の細胞外電子伝達機構解明に向け、最適電位(+0.4 V [vs SHE])条件下で乳酸を電子供与体としてHK-II株を培養する。また、ゲノム解析データからHK-II株はギ酸を電子受容体として生育する可能性が示唆されたことから、ギ酸を電子受容体とした際の、細胞外電子伝達における最適電位を特定する。これら電子供与体を乳酸、あるいはギ酸とした細胞外電子伝達時のHK-II株についてトランスクリプトーム解析を実施する予定である。また、トランスクリプトーム解析に供試した同じ培養物を用いて、細胞外電子伝達に関与すると推定されているcytrochrome cタンパク質を選択的に染色するヘム染色方法により、それぞれの培養物から特定のタンパク質を検出しLC-MS/MS解析によってタンパク質の同定並びに分子量からそれらをコードする遺伝子を推定する。推定された遺伝子が目的の機能をコードしているのかどうかを確認する為には、対象とする遺伝子の破壊株を作出する必要がある。一般的に嫌気微生物の遺伝子操作技術はほとんど確立されておらず、我々の対象微生物も同様である。そこで、CRISPR-Cas9による遺伝子編集技術を用いた変異株作出技術の構築を並行して進める予定である。
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