研究課題/領域番号 |
21H03635
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
永長 久寛 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (90356593)
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研究分担者 |
宮脇 仁 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (40505434)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 触媒 / 複合酸化物 / 吸着 / 触媒酸化 / 揮発性有機化合物 |
研究実績の概要 |
工場、事業所から排出される低濃度の揮発性有機化合物(VOC)の処理の高効率化は環境保全の観点から喫緊の課題である。本研究では、炭素系材料とペロブスカイト型酸化物触媒の高いマイクロ波加熱特性を生かし、VOCの吸脱着と濃縮、酸化分解過程を速やかに進行させる高効率汚染物質処理プロセスを開発し、その有効性について実証することを目的とする。VOC吸着特性とマイクロ波照射下での昇温特性を両立する炭素系材料、マイクロ波加熱下で高い昇温特性と酸化特性を有するペロブスカイト型酸化物触媒を開発し、これらの特性を生かすことで高効率VOC分解プロセスを構築する。 マイクロ波照射下での触媒特性を支配するのは触媒の昇温特性であり、触媒表面上の活性点の温度を速やかに上昇させ、吸着した反応基質を如何に速やかに反応させるかが反応促進の鍵となる。酸化物のマイクロ波昇温特性は、その組成や格子欠陥の量に依存する。以上の観点から、様々な元素を適宜選択し、加水分解法や蒸発乾固法により複合酸化物を合成し、その昇温特性について比較検討した。 酸化触媒材料の特性は所定温度での酸化反応速度により規定される。150~300℃の温度範囲でのVOC酸化特性の向上により、マイクロ波照射下での触媒酸化特性の向上が見込まれる。開発した複合酸化物触媒について、VOC酸化特性を比較検討した。ベンゼン、トルエンなどの炭化水素やジクロロメタン、有機脂肪酸などの触媒酸化反応を行い、VOC分解速度の温度依存性、活性化エネルギー、頻度因子を求めた。さらに、電気炉加熱により触媒反応を行った際の結果と比較し、マイクロ波照射効果について明らかにした。 さらに、ゼオライト系吸着剤を組み合わせることにより、低濃度のVOCを吸着した後にマイクロ波加熱で昇温させてVOCを濃縮させ、酸化物触媒層で酸化分解するプロセスについて検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、マイクロ波加熱の特性を生かし、VOC吸着剤とマイクロ波吸収特性と触媒酸化特性に優れた酸化物触媒を組み合わせ、VOC吸着-急速昇温によりVOCを高効率で酸化分解するプロセスを開発する。このためには、酸化分解触媒の開発が重要である。 初年度は、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を用いた加水分解-沈殿法により、Cu/Mn比の異なるCu-Mn酸化物を合成し、その触媒特性について検討した。XRDとEXAFSによりスピネル型Cu-Mn複合酸化物の生成を確認し、400℃で焼成したCu/Mnモル比1:1のCu-Mnスピネル酸化物が、酸素種の反応性によりマイクロ波加熱下でベンゼン酸化に最も高い活性を示すことを明らかにした。この際、マイクロ波加熱の熱的効果によって反応温度は著しく低下し、結晶性の高い粒子ではマイクロ波照射効果が顕著であること、酸素非共存下での反応は、触媒の酸素種が触媒酸化を進行させ、生成した酸素欠陥に反応ガス中の酸素が吸着し、触媒が再酸化されることを明らかにした。さらに、速度論的研究により、酸素種の活性化が酸化反応に重要であること、マイクロ波照射がこのステップを促進することを示した。マイクロ波照射による触媒の急速加熱とVOCs吸着工程を組み合わせることで、VOCs酸化の効率を向上させることができた。このように、マイクロ波支援型触媒酸化プロセスは、中低濃度のVOC除去に有効であることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、Cu-Mn系スピネル型酸化物触媒のマイクロ波昇温特性およびベンゼン酸化分解特性について明らかにした。さらに、ゼオライトとの組み合わせにより、吸着-マイクロ波昇温、触媒酸化プロセスを逐次的に行うことで、低濃度のベンゼン酸化を速やかに進行させることが可能となった。このプロセスでは、1)ゼオライトへのベンゼン吸着、2)マイクロ波照射によるCu-Mn複合酸化物触媒の急速昇温、3)Cu-Mn複合酸化物触媒からゼオライトへの伝熱によるベンゼンの脱離、濃縮、4)Cu-Mn複合酸化物触媒によるベンゼンの酸化分解といった過程によりベンゼン酸化が進行する。従って、細孔構造を制御したゼオライトの探索、異種元素の添加による複合酸化物触媒の昇温特性、ベンゼン酸化分解特性の制御、3)反応器内部の伝熱過程の促進などがベンゼン酸化分解効率の向上に寄与すると考えられる。 以上の観点から、次年度は引き続き、触媒材料の開発を行う。Coなどの遷移金属をCu-Mn系複合酸化物に転化することで触媒表面積の増大や酸化還元特性の向上を図る。また、触媒の形態についても着目し、酸化物のファイバーやミクロスフィア型など様々な構造に制御して触媒の昇温特性の制御を試みる。従来の検討より、高次粒子の構造、形態、粒子サイズなどを変えることにより、マイクロ波加熱特性が変化することを見出しており、さらなる触媒高次構造の制御による昇温特性の向上効果について検討する。 また、VOCの吸着材として炭素系材料の有効性について検討する。炭素系材料の表面積、細孔構造、電子伝導性を変えることにより、VOC吸着特性やマイクロ波昇温特性が著しく変化するものと考えられる。反応基質により炭素材料を適宜選択し、VOC分解の高効率化を図る。
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