研究課題/領域番号 |
21H03647
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中村 太士 北海道大学, 農学研究院, 教授 (90172436)
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研究分担者 |
渡邊 康玄 北見工業大学, 工学部, 教授 (00344424)
森田 健太郎 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (30373468)
卜部 浩一 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, 水産研究本部 さけます・内水面水産試験場, 研究主幹 (30442669)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自然再生 / ダム改良 / 野生サケ / 産卵適地 / 産卵環境 / 稚魚降海数 / 再生産効率 / 親魚遡上数 |
研究実績の概要 |
知床世界自然遺産地域のルシャ川において、現在、進められている最上流ならびに中間の低ダムの流水路部分40m幅での基礎部分まで撤去した場合、さらに最下流のダムまで部分撤去した場合の河道変化を、iRICシミュレーションで再現することができた。その結果、ダム改良によってダムによって形成されていた段差(落差)は解消し、部分撤去区間には産卵環境が再生できることが明らかになった。 また、カラフトマス、サケ、サクラマスについて、3種の全道レベルの産卵適地マップを構築し、ダムによる分断化を評価、さらにダム改良による効果評価を実施した。現在、その成果をもとに論文を執筆中である。サケの再生産効率は増水による河床撹乱によって著しい負の影響を受ける。一般的に撹乱の強度は流域地形特性と関連するため、再生産効率は流域単位の不均質性を有するはずである。そこで本研究では、カラフトマスを対象とし、流域地形特性が再生産効率に与える影響を検討した結果、流域平均斜度、stream power、流域平均最大24時間雨量が有意な変数となった。 豊平川において、サケの遡上時期と産卵する河川地形の違いが、産卵環境と卵の死亡率に与える影響について調べた結果、前期群は砂礫堆の前縁湧昇部に多く産卵され、後期群は2次流路に産卵することが明らかになった。埋設卵実験では、前期群の卵は、発眼卵からふ化まで、発眼卵から浮上までの両方の成長段階とも卵の死亡率が低く、冬期間の最高河床温度は後期群の産卵床で高かった。自然産卵による卵から稚魚までの自然再生産効率は、メスの抱卵数と産卵床数および稚魚トラップ調査の結果から推定した降下稚魚数に基づき平均12.7%であると推定され、同じ水系の自然河川における推定値(約20%)よりも低かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、①河川環境の修復や復元事業における河川地形ならびに河床材料の変化を、二次元河床変動計算によって明らかにすること、②サケ類の産卵に適した河床地形、河床材料、ならびに水理条件から、サケの産卵適地、復元事業前後の産卵環境の改善を明らかにすること、③サケ類の遡上数、産卵床数、ならびに降海稚魚数から、再生産効率(親魚密度に対する降海稚魚数)を明らかにする。④①~③を統合し、ダム改良によって得られる産卵適地ならびに再生産効率の増大を明らかにし、ダム改良効果をサケ資源量の増加の観点から評価し、自然産卵による持続可能な管理手法を提案する。 上記目的のうち、①についてはシミュレーションを実施し、その効果評価を行うことができる予備結果を得られた。②については河床材料から産卵適地を全道レベルで明らかにし、稚魚降下数を推定できるモデルを構築できた。また、③については産卵床の分布を地形面に対応して明らかにし、再生産効率が前期群、後期群で異なることを明らかにした。以上から順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
知床世界自然遺産地域のルシャ川において、条件の異なるiRICシミュレーションを実施し、ダム改良が産卵環境の改善に与える影響、さらに再生産効率に与える影響を明らかにする。 また、カラフトマスについて、知床のフィールド調査で明らかとなった親魚と降下稚魚数、ならびに環境変量の関係をモデル化し、降下稚魚数を説明できる統計モデルを構築する。現在考えている環境変量は、各流域の地形特性(流域平均斜度およびstream power)や降水量、水温等である。 豊平川においては、サケが産卵する河床地形の特徴、産卵環境や卵の死亡率、さらに降下稚魚の生産性との関連性を遡上時期によって解析し、論文化する。
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